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「政治に翻弄されたオーケストラ」等松春夫さんが講義
掲載日:2024年5月21日
オーケストラは、人類が生み出した最高の芸術表現のひとつであり、私たちの心を深く動かす力を持っています。しかし一方で、時の政治権力に利用されたり、使い捨てられたりしながら、しぶとく生き残りをはかるなど、人間社会の縮図とも言える存在でもあります。そんな彼らの運命について、豊富なエピソードと音源をもとに、防衛大学校国際関係学科の等松春夫教授に解説していただいています。
等松教授は、政治外交史・比較戦争史を専門とされ、『日本帝国と委任統治』の著書のほか、H.P.ウィルモット『大いなる聖戦:第二次世界大戦全史』などの訳書も多数あります。また、クラシック音楽にも造詣が深く、英国音楽を中心にエッセイや楽曲の解説を多数執筆されています。
今期のテーマは「政治に翻弄されたオーケストラ」。第二次世界大戦と冷戦の荒波に揉まれたオーケストラの事例から、政治と音楽の関係を考察していただいています。
第1回の講義(4月10日)では、敗戦後のドイツで、アメリカ占領軍政府がつくった放送局のオーケストラ(RIAS交響楽団=現ベルリン・ドイツ交響楽団)についてお話しいただきました。
講義の冒頭では、戦後まもない1948年にベルリンで収録されたコンサートのCDが流されました。
ルーマニア出身の若き天才チェリビダッケの指揮の下、RIAS交響楽団が演奏したのは、米国人作曲家ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」。きびきびとした鮮やかな演奏です。しかし、演奏に交じってときどき飛行機の爆音が聴こえます。
なぜ、ルーマニア人の若者が、がれきだらけのベルリンで、アメリカ人の曲を演奏するのか? そして、爆音の正体は?
この歴史の一コマを、等松教授は、西側連合国(特に米国)が進めたドイツの非ナチ化政策や、冷戦の最前線でのソ連への対抗、ベルリン封鎖と大空輸作戦など、当時のさまざまな政治的文脈から読み解いてくださいました。
1枚のCDに、こんな歴史的事実が刻印されていようとは。
音楽は聴いていて純粋に楽しいものです。しかし、その背景には、権力の打算や駆け引きが常に隠されていることに気をつける必要があります。が、それでもなお、音楽が私たちの心を引きつけて離さないのはなぜなのか……と、考えた90分でした。
◆等松教授の次回講座は5月22日(水)。テーマは「追放されたオーケストラ:バンベルク交響楽団」です。
7月からは新シリーズ「政治と音楽~20世紀ユダヤ人指揮者たちの苦悩と栄光」が始まります。
2024年5月2日「花のちぎり絵」講座に参加しました
掲載日:2024年5月8日
和紙のちぎり絵の講座に参加しました。紙をちぎって、やぶって、貼って……。子供の頃に作ったことがあるという人も多いですよね。
そんなちぎり絵、大人になってからも十分楽しめるんですよ。
私が参加したのは、浅野めぐみ先生の「花のちぎり絵」のクラスです。
浅野さんは、花のちぎり絵「秋麗会」師範で、都内や横浜を中心に子どもからお年寄りまで多くの生徒さんを教えています。この日も、先生をはじめ、受講生の皆さんに温かく迎えていただきました。
テーマは、一輪咲きのバラです。先生オリジナルの手染めの赤と緑の和紙をいただき、さっそく、バラの花びらと葉っぱの形にちぎってみました。
びりびりっと指先で和紙をちぎる時の心地よい感触。
ふわふわっとした和紙の毛羽(けば)の温かみ。
初心者でも、ちぎり絵ならではの面白さをすぐに感じ取ることができます。
先生の見本を見ながら、ちぎった和紙をバラの花や葉、茎の形に置いていき、のりで貼っていきます。私が作った不格好な花も、先生に竹べらで形を整えていただくと、しゃきっとしたバラに早変わりしました。
最後にピンセットで花粉を入れて完成!
ちぎって貼るだけなのに素敵な作品が出来上がりました。
浅野さんによると、和紙を指先でちぎって貼る作業は心を癒やし、ストレス解消や脳トレにもなるそうです。「どんな作品もみな正解です。かわいい作品ができて、みんなで褒め合って、とても楽しい時間が過ごせますよ。」
浅野さんは、ランチの食材をちぎり絵にするレストランとのコラボイベントなど、活動を広げています。また、クリスマスカードやウェディングボードに使ったり、スマホケースや扇子に貼ったりと、「ちぎり絵の可能性は無限です」。
浅野めぐみさんの作品
◆「花のちぎり絵」お申し込み・詳細はこちら。
現役外科医が指南、医療情報の見分け方
2024年4月27日「現役外科医が語る、人生100年時代に知っておきたい医学と人体の深い話」
掲載日:2024年5月2日
医師の山本健人さんの「現役外科医が語る、人生100年時代に知っておきたい医学と人体の深い話」の講座を聴講しました。
ウソの医療情報に惑わされず、正しい情報を得るためのコツを教えていただきました。
山本さんは大腸がんの専門外科医で、『すばらしい人体』や『すばらしい医学』などの著書も多数あります。また、主宰する医療情報サイト「外科医の視点」は累計1200万ページビューを超える人気サイトです。
山本さんによると、インターネット時代になり医療や病気に関するさまざまな知識が得られるようになった一方で、世の中には間違った医療情報があふれているそうです。誤情報にだまされて、医学的根拠の乏しい治療に傾倒し、目の前から去っていた多くの患者をみてきたという山本さん。「診察室の中だけでは患者さんを適切に導くことはできない」という考えから、執筆や講演活動、ネットでの情報発信に力を入れるようになったそうです。
この日の講義では、「がんに効く飲料水を開発」とうたって株式投資を促した事件や、コロナ禍で需要の高まった空間除菌などを例に挙げ、誤情報に惑わされないよう注意を促しました。
正しい医療情報を得るためには、公的機関や学会の公式サイトに行くのがオススメだそうです。また、病院を効果的に活用するための4つのコツなど、役立つ情報が満載の講義でした。
◆4月27日の講座「現役外科医が語る、人生100年時代に知っておきたい医学と人体の深い話」のアーカイブを販売いたします!詳細は以下をご覧ください。
2024年4月11日「観世流謡曲体験」受講レポート
掲載日:2024年4月29日
謡曲に初挑戦しました。能は日本の伝統文化です。
お腹から声を出して、無心にうたうこと50分。爽快な気分になりました。
私が参加したのは、「観世流謡曲入門」の体験講座でした。
講師はシテ方観世流能楽師で、重要無形文化財総合指定保持者の大松洋一さん。背筋がすっと伸び、凜とした姿に見とれました。
講座はまず、先生の講義から始まりました。
謡曲は、能の「うたう部分」を取り出したもので、観阿弥・世阿弥の時代から600年以上続いています。またお稽古で使用する謡本は、職人が一冊ずつ表紙をつけ、糸で綴じた和装の本です。手に取ると、人の手が時間をかけて作った温かさを感じます。
そして、実際の謡の稽古が始まりました。初心者向けに「鶴亀」という曲が選ばれました。
「〽︎それ青陽(せいよう)の春になれば、四季の節会(せちえ)の事始め……」
先生が一句ずつ謡い、生徒たちはそれに続いて声を出します。
最初は大きな声を出すのが恥ずかしかったですが、先生の声をまねて発声するうちに、次第に大きな声が出るようになりました。
謡本には、文字の右側にゴマ粒のような符号や漢文の返り点のような記号が書かれています。節をつけてきちんと謡うには、これらの記号の意味を理解する必要がありますが、初心者の私にそんな余裕はありません。
ただひたすら、先生の声に集中し、その調子やリズム、抑揚を吸収し、そのまま声に出して再現することを繰り返しました。
「ただ大きい声ではなく、遠くに届く声を意識して!」
「周りに合わせず、自分の声で!」
先生から指示が次々に飛びました。
お腹の奥から声を出し、心地よい疲れを感じたところで、謡曲初体験の講座は終了しました。正座で足がしびれていることも忘れていて、しばらく立つことができませんでした。
◆大松洋一さん指導の「観世流」には謡曲と仕舞のクラスがあります。
受講希望の方は見学をおすすめしております。予めご予約ください。(TEL:03-3344-1946)
「日本の安全保障の核心とは何か」川名晋史さんにインタビュー
改定日:2024年4月25日
東京工業大学教授の川名晋史さんの新著『在日米軍基地―米軍と国連軍、「2つの顔」の80年史』(中公新書)が注目を集めています。私自身、この本を読んで在日米軍基地に関する固定観念が一変しました。日本の安全保障の核心には何があるのか?
新しい講座が4月から始まるにあたり、川名さんにインタビューしました。
ーー川名先生には、3年前から朝日カルチャーセンターで「在日米軍基地」や「日本の安全保障と米軍基地」などのテーマでご講義いただいています。改めて、これまでの講座の狙いをお聞かせいただけますか?
講座のタイトルは「在日米軍基地」や「日本の安全保障」ですが、私が伝えたかったのは、戦後日本の姿形とは何なのかを考察することでした。
日本の安全保障には、極めて特殊なアメリカとの関係が根底にあります。主権国家に、他国の軍事基地が平時に存在するのは非常に異例です。この特殊性は、戦勝国と敗戦国の関係性から来ており、それを延伸した先に日米安保条約があります。
そして、その当時にたまたま歴史の妙で朝鮮戦争が勃発し、急ごしらえで作ったスキームが、今日までの日本とアメリカの関係を規定し続けています。
ーー先生は、ご著書で「日本にいる米軍は2つの顔をもっている」と指摘されています。ひとつは「表」の顔である在日米軍としての米軍、もうひとつは「裏」の顔である国連軍としての米軍です。米軍は、この2つの顔を使い分けながら、日本の基地を自由使用できるよう腐心してきた、と述べられています。
米軍の立場からすれば、これはとても自然なことです。軍の存在理由は、自国の防衛と、自国の戦略的・経済的な利益の最大化であるからです。
しかし、自国の目標を達成するためには、他国の主権と衝突することが避けられません。通常、そのような場合には外交というクッション材が入り、双方が妥協できるところに落ち着いていくものです。
ところが、日本とアメリカの関係においては異なります。米軍の論理が極めて前景化してきた歴史があります。米軍の論理とは何か、米軍の目的とは何かを理解すれば、日米関係がクリアに見えてきます。
ーー米軍の目的とは具体的に何ですか?
米軍は、「国連」を隠れ蓑にして、友軍を在日基地に迎え入れ、有事の際には、米軍と友軍とで極東に軍事作戦を展開することを意図しています。米軍は、基地を自由使用するフリーハンドを日本では手に入れています。なぜ手に入れることができたのでしょうか。
一般的には「いざとなれば米軍は日本を守ってくれる。だから、日本はその代償として基地を受け入れなければならないのだ」という理解があります。しかし、事実はそう単純ではありません。
ーー歴史を振り返れば、朝鮮戦争の際、運良く国連安保理の決議が成立し、実質的には米国主体の有志連合にすぎない軍隊が「国連軍」と名乗ることが許され、日本から出撃しました。戦争後も、米軍はその権益を手放すまいと、国連軍地位協定や安保改定時には日本との間で密約を結び、基地の自由使用を制度的に確立していきました。ご著書では、その過程が克明に描かれています。
条約や協約、協定を含めた総体としての「制度」が、ある種の生き物のように、当初の役割が終わったかに見えた後も生き続け、成長していく。私は、この制度のダイナミズムを示したかったのです。
原因は、「制度」そのものにありますので、政治的に右か左かといった問題ではありません。時の首相が吉田茂であろうと岸信介であろうと、政策の選択肢は実質的に限られています。政治家の違いは誤差にすぎないとも言えるでしょう。
ーー4月26日から、10回のシリーズ講座「国際政治と日本の安全保障」がスタートします。その狙いを教えてください。
これまで私の講座に参加された皆様は、在日米軍基地などの歴史的実態について理解されたことと思います。今回のシリーズでは、時空を超えて、遠くの視点から日本の安全保障を望遠してみようと考えています。
たとえば、15世紀から16世紀のポルトガルを例に挙げれば、彼らは海洋国家として、交易によって海外に植民地などの権益を獲得しました。他の地域を自国の意のままに動かそうとすれば、当然、そこに軍隊を配置する必要があります。
では、植民地での軍隊の駐留と、現在の日本における米軍基地は同じですか、それとも異なりますか? 戦後の日本とアメリカの特殊な関係は、他の時代や国家間でも起こりうるものなのでしょうか?
国家間の関係は、物理的な暴力に限らず、経済や思想、人をアトラクトする(引きつける)力など、様々な要因に規定されています。
今回の講座では、こうした複雑な国際政治を理解するための視点を、パッケージにして皆様のテーブルにお届けします。これまでの固定的な考え方ではなく、新しい景色が見えてくるのではないでしょうか。
◆川名晋史さんの「国際政治と日本の安全保障」は5月10日より開講です。(日程が変更になりました)
浅田彰さん『構造と力』を読んで
掲載日:2024年4月4日
批評家の浅田彰さんが20日、朝日カルチャーセンターにオンラインで登壇されます。
文庫になった『構造と力』を40年ぶりに読み直しました。
特に終章の「砂漠へ」が印象的です。
外へ出よ、外へ出よ。(中略)
目指すべきは、サラサラと砂が舞いおどる広大な砂漠だ!
沼に足をとらわれてウン十年すごしてきた中高年おじさん(=佐野)は、この本にとても勇気づけられました。
浅田さんは僕たちにどんなメッセージを伝えてくれるのでしょうか。
楽しみにしています。
◆浅田彰さんの講座「現代世界へのパースペクティヴ」は4月20日開講です。
2024年3月28日「カラフルなパステル」講座体験記
掲載日:2024年3月30日
ふんわりとした優しいタッチが魅力のパステル画。私、佐野は56歳にして初めてパステル画に挑戦しました。パステルの顔料(色の粉)を指でこすって広げたり、混ぜたりして絵を描いていきます。先生の丁寧な指導のもと、2時間ほどで桜の絵が完成しました。絵心がなくても大丈夫!これから絵を始めようという方にパステル画はぴったりかもしれません。
用意するのは、36色セットのソフトパステルとスケッチブックとお手拭きだけです。先生は、画家の松川佳代さんです。『パステルで風景スケッチ』(日貿出版社)の著書のほか、YouTubeでもパステルの描き方などの動画を発信している、とても優しい先生です。
先生から渡されたお手本は、春の陽気に満開の桜の絵でした。「これ、無理でしょう」というのが私の第一印象。だって、絵を描くのは学校の美術の授業以来、40年ぶりなんですから。
固まる私を前に、先生はピンクと青紫のパステルを使って、桜の下書きを始めます。色を塗った後、指の腹でぐるぐると円を描くようにこすると、色が混ざって、ほんのりと桜のイメージが表れてきました。
「パステル画はパレットは使わず、紙の上で色を混ぜます。塗りながら描くので、下書きはおおざっぱで大丈夫」と松川先生。
先生の見よう見まねで何度かトライしているうちに、ぎこちないけれど、なんか桜っぽい感じが出てきました。
背景は空の青、山並みは濃い紫、その前には緑の木々。先生のお手本通りに、順番に色を塗っては指で混ぜる作業を繰り返していくうちに、だんだんと絵らしくなってきました。光が差している部分に黄色を、桜の木の陰に青を入れると、立体感が出てきました。
描いているうちにどんどん楽しくなってきて、集中すること約2時間。こんな僕でも見本通りに絵ができました。
松川先生によると、パステル画は次のような特徴があり、初心者でも始めやすいそうです。
- 水や油が要らず、手軽
- 細かい下書きがいらない
- 指でこすればきれいなグラデーションができる
- 間違っても修正しやすい
- 色を重ねられる(油絵の描き方に近い)
なによりも、先生が受講者のみなさん一人一人に丁寧に指導されている姿が印象的でした。
◆松川佳代さんのパステル講座、お申し込み・詳細はこちら。
「スーパーアナリーゼ」指揮者・曽我大介さんにインタビュー
掲載日:2024年3月26日
オーケストラの名曲の数々を、指揮者の視点から分析する曽我大介さんの「スーパーアナリーゼ」シリーズは、朝日カルチャーセンターの人気講座のひとつです。指揮者だからこそ語れる講座の魅力について、曽我さんにお聞きしました。
ーーベートーヴェンの「第九」初演200年を記念した本日の講座。第九ってこんなに面白い曲だったのかと目からうろこでした。
第九は、悪魔の調(二短調)と神様の調(二長調)のせめぎあいを基本コンセプトにしています。第一楽章では闘争の音楽のさなか、一瞬、天国からホルンの神様の声(ニ長調)が聞こえたり、第二楽章ではティンパニの一撃で悪魔の調に転調したりと、驚きの仕掛けが全曲に散りばめられています。
ーー聴衆を引きつけるためのベートーヴェンの工夫が手に取るようにわかりました。
当時の一般聴衆には複雑なものを示しても分かりづらいので、単純な要素を用いながらすごい作品を創り出しました。このすごさの裏には、どういう仕掛けや意図があるのか。指揮者の楽譜の読み方をお伝えすることで、手品の種明かしをした感じでしょうか。
ーー講座の準備は大変ではないですか。
1時間半の講座のために、1日2時間、丸一週間かけて準備しているんですよ(笑)。スライドを分かりやすくビジュアルで見せるために、楽譜で主題やモチーフごとに丸をつけたり、色分けしたりして、手間をかけています。
ーー続いて次回4月20日の講座では、生誕200周年のブルックナーを取り上げます。
ブルックナーは、熱狂的なファンがいる一方、食わず嫌いの方も多くないでしょうか。先日、講座の準備も兼ねて、彼がオルガニストとして活躍し、いまも眠るオーストリアの聖フローリアン修道院に巡礼に行ってきました。
私にとって、ブルックナーは、他の作曲家とは異なるカテゴリーの作曲家です。ベートーヴェンやモーツァルトなどの作品には、恋心や愛、憎しみといった人と人とのつながりの要素がたくさんありますが、ブルックナーはもっと孤独で不器用です。こうした人間が、時間をかけて成熟していきました。ブルックナーの人となりから作品の本質に迫っていきたいと思っています。
◆4月以降に開講する曽我大介さんの講座、お申し込み・詳細はこちら。
4月開講「チョムスキーを読む~言語から人間の創造性を探る」酒井邦嘉さんにインタビュー
掲載日:2024年3月18日
ChatGPTなど生成AIが急速に社会に広がる中、言語脳科学者の酒井邦嘉さん(東京大学教授)は、その危険性に警鐘を鳴らし続けています。
人間と人工知能の違いとは? 生成AIによって人間は何を失うのか? 酒井さんに聞きました。
ーーChatGPTなどの生成AIが急速に社会に広がっています。
昨年来、多くの人たちがこの新しい技術をそれほど抵抗感なく受け入れていること自体、私には信じがたいことです。「新技術を恐れるな」とAIを喧伝する風潮がある一方で、テクノロジーが独り歩きすることへの危機感が乏しいと感じます。
言語は人間の創造性を培う最も基本的な能力です。しかし生成AIは単に言葉を合成するだけで、心はもちろん意味や意図の理解もありません。文章を創り出す脳の働きを機械に置き換えるなど、言葉を軽んじる現代の価値観が露呈してしまいました。
ーー先生は、とくに教育分野での生成AIの活用に強く反対されています。
教育で生成AIを使うことが危険なのは、学生が自分の頭で考えることを軽んじ、そのこと自体を推奨するからです。ChatGPTに問いかければ、もっともらしい文章らしきものができてしまう。学生は自分の頭を使うことなく、手軽に文章が書けたと錯覚するわけです。これは教育で培うべき姿ではなく、ふだんからカンニングやドーピングを薦めるようなものです。文章を生成する能力の衰退は思考力の低下を招き、国語や語学に限らずすべての科目に波及します。
ーー私も実際に生成AIを使ってみましたが、さくさく文章が出てきて快適でした。
生成AIは基本的にイエスマンですから、耳の痛い話は返しません。これに依存してしまうと、自分にとって心地のよい内向きの世界にのみ安住し、家族や同僚などからの時には厳しい意見を聞かなくなってしまう恐れがあります。そうした安易な手段への誘惑を果たして断ち切れるでしょうか。
ーー4月にスタートする新講座では、生成文法理論を提唱して言語学に革命を起こしたチョムスキーの主著『統辞構造論』を1年かけて読み進めるそうですね。
生成AIで文章を合成するような時代だからこそ、言語能力に基づく人間の創造性について、突き詰めて考える必要があります。その基礎を明らかにしたのがチョムスキーであり、60年以上前に書かれたこの古典の中に、基本的なアイディアが詰まっています。
『統辞構造論』を読むことで、人間や言葉の素晴らしさについて皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。
◆酒井邦嘉さんの「チョムスキーを読む」は4月20日より開講です。
2024年3月11日 「バロックオペラを楽しむ」
フランスのバロック時代の作曲家、ラモーのオペラを初めて鑑賞しました。
驚くほど華麗な音楽と舞台設定に魅了されました。講師は西洋音楽史の権威、今谷和徳さん。
来月からは「ルイ15世時代のフランス音楽」についての講義を楽しみにしています。
◆今谷和徳さんの「ルイ15世時代のフランス音楽」は4月8日より開講です。
2024年3月9日 「歴史と用兵思想から現代の紛争をみる」
大木毅さんの連続講座の2回目。ウクライナ軍が米軍の用兵思想を取り入れたことで開戦当初は優れた戦いを展開しましたが、その後反攻がうまくいかなくなった理由について、米軍の作戦「デザイン」の視点から鮮やかに分析されました。
まるで一流のビジネススクールの講義を受けているかのような感覚になりました。
◆大木毅さんの「歴史と用兵思想から現代の紛争をみる」、3月23日が最終回です。
2024年3月9日 「生成AIを使ってみよう」
中山信行さんによる生成AIの実践講座に参加。よい答えを引き出すには、質問の仕方にコツがあるんですね。同じ生成AIでも、ChatGDP、Bing(Copilot)、Bard(Gemini)によって特徴・性格もさまざま。使い分けると便利です。
もちろんいろんな問題も起きていて、中山さんいわく「AIが人間にとって良いものになるか、危険なものになるかは、人間次第です」とのこと。
4月開講「クラシックへのお誘い」奥田佳道さんにインタビュー
掲載日:2024年3月8日
音楽評論家の奥田佳道さんが、新しい講座「クラシックへのお誘い~名曲を楽しく」を4月から始めます。誰もが一度は耳にしたことのあるあの名曲、あのメロディーの舞台裏や誕生ドラマをお話ししてくださいます。クラシック音楽がより身近に感じられること間違いありません。
講座の狙いについて、奥田さんにインタビューしました。
ーー奥田先生には長年、クラシック音楽の講座を担当していただいています。来月4月から「クラシックへのお誘い~名曲を楽しく」という新講座が始まります。狙いをお聞かせください。
朝カルへの出講は20年以上になります。これまではウィーンの音楽、オーケストラ、ヴィルトゥオーゾ(楽器の名手)などの話をしてきました。朝カルさんには熱心な音楽ファンが多く、講師がたじたじになることもしばしば。講師冥利に尽きます。
一方で、マニアな方々だけではなく、これからクラシックを聴いてみようという大人に手を差し伸べるような講座ができないか、と考えてきました。あの名曲の誕生のドラマを知って、音楽を身近に感じていただけるような話ができれば、と。
ーー今回取り上げる曲は、運命、新世界、ラヴェルのボレロ。名曲中の名曲です。
改めて解説する必要のないような曲ばかりを選びました。でも、こんな名曲にも、いろんな楽しみ方があるし、えっと驚かされたり、その時代を映し出しているエピソードがたくさんあります。
ーーそうなんですか。
たとえば、運命の冒頭の「ダダダダーン」。通説では、ベートーヴェンが「運命はこのように扉をたたく」と語ったとなっていますが、伝記作家が話を盛ったんじゃないかと言われている。ベートーヴェンが森を散歩していて、そこで聞いた鳥の鳴き声という説があるんですよ。
それに延々と続くボレロのあのリズム。あれって、「人生楽ありゃ苦もあるさ」の水戸黄門のリズムをどこかで連想させませんか?拍子も背景も違うのに、そう思わせる何かがあります。新世界の有名な第4楽章の冒頭は、鉄道好きのドヴォルザークがアメリカで見た蒸気機関車の発車から連想したそうです。
ーーこの講座は、どんな方におすすめですか?
歴史や美術、文学が好きな大人のみなさんに聞いてほしいです。それに、若い人たちにも。クラシックの調べは、テレビドラマやネットをはじめ、日常生活のいろんなところに使われてて、実はなじみが深い。仕事が終わった夜の時間帯に、改めて名曲に触れる機会になってもらえればうれしいです。
◆奥田佳道さんの「クラシックへのお誘い~名曲を楽しく」は4月11日より開講です。
2024年3月6日 「インド、超大国への道」
人口が中国を超えて世界一になったインドの現在地と未来について、朝日新聞・前ニューデリー支局長の奈良部健さんが講義。強いリーダーシップで長期政権を続けるモディ首相は「世界のグル(指導者)」と呼ばれる一方、周辺国にはインドはジャイアン(いじめっこ)みたいに映っていて、「必ずしも尊敬されているわけではない」そうです。
奈良部さんは、朝日新聞の記者時代の同僚です。講義後は、場所を移して、次回講座について二人で密談。乞う、ご期待!
2024年3月2日 一億三千万人のための『歎異抄』
「歎異抄」全文を翻訳した作家・高橋源一郎さんの出版記念講座。
「自分には無関係だと思っていた歎異抄が、年を取って身にしみて分かるようになった」そうです。
念仏を唱えるだけで極楽に行けると唱えた親鸞と、そんな師匠に憧れて言葉を書き留めた弟子の唯円。言葉のもつ力について、たっぷり語っていただきました。
講座を終えて、高橋源一郎さんのコメント
熱心に聞いていただいて、みなさん、我が同胞です。
歎異抄が書かれたのは、いまから700年ほど前、戦乱と飢餓と天災の時代でした。今とよく似ている。
そんな時代に不安を抱えている人のために書かれた本だからこそ、時代を超えて、フィットするのでしょう。
ぼくの言葉が、みなさんに届いたなら、うれしいです。
2024年2月29日 甲野善紀に武術を学ぶ
古武術研究で名高い甲野善紀さんを中心に車座になって、武術の奥義の一端を学びました。
手の握り方ひとつで、手ー腕ー背中の筋肉がつながり、軽く人を持ち上げられたり、思わぬ攻撃にもたじろがずにいられることを体験。
いやあ、びっくり。
身体の自然な使い方を学ぶうちに、甲野さんの話は、人間はいかに生きるべきかという哲学的なテーマへと発展。
驚きと奥深さに満ちた一夜になりました。
◆「甲野善紀に武術を学ぶ」、次回は5月に開講です!