【朝カルTimes:vol.46】君嶋哲至さんがつなぐ 人と日本酒(横浜)

「柿の種もってきました」「妻が作ったクッキーです。どうぞ」。お酒好きに広く知られるカリスマ、君嶋哲至さんから直に学べる日本酒講座と聞き、緊張しながら教室をのぞくと……なぜか新聞紙にくるまれた酒瓶を前に、参加者同士がお菓子を配り合う光景が広がっていました。横浜教室「君嶋哲至の銘酒を極める」講座をご案内します。(横浜教室長・石井洋子)

掲載日:2026年5月14日

早生と晩生 味に特徴

君嶋さんの解説と、手に入りにくい銘柄の試飲で日本酒の奥深さを学ぶこの講座。教室におじゃました回のテーマは「米の違い」でした。

君嶋さんはまず、板書をしながら酒造好適米の説明を始めます。

4月に植えて8月に収穫する早生(わせ)の主な品種は五百万石(ごひゃくまんごく)や美山錦(みやまにしき)。米が硬く溶けにくいため、すっきりとした酒質になるとのこと。一方、6月に植えて10月に収穫する晩生(おくて)米である山田錦や雄町(おまち)、愛山(あいやま)は米が軟らかく溶けやすいため味がしっかり出るそうです。

色だけでおいしそう

「じゃあ始めますか」。お楽しみの試飲です。

一人ひとりにお酒を注ぎながら机を回ります。

「クリスタル! 色だけでおいしそう!」

歓声とともに参加者はグラスをゆらして匂いを嗅いだり、光にすかして色を見たり。その表情は真剣そのもの。

「色で米の磨き具合が分かるんですよ」君嶋さんは、参加者一人ひとりの名前を呼んで感想を促します。

「緑がかったシルバー色」「白玉だんごみたいな匂い」。独特の表現とともに「生酛(きもと *1)特有の酸ですね」といった日本酒用語が次々飛び出し、教室内の空気が一気に盛り上がってきます。瓶を新聞紙で包んでいたのは、銘柄を伏せて参加者から自由な感想を引き出す工夫でした。それでも「この米は亀の尾(かめのお)では」と静かに正解を言い当てる紳士に皆が驚く場面も。さすが、銘酒を極めようとする参加者です。

試飲が行き渡った後は、新聞紙をはいで銘柄を明かし、米の品種や精米歩合(*2)などお酒の基本要素の解説に移ります。

「このお酒は西京漬けに合いますね」「この蔵は農家と村米制度を結んでいるんですよ」「この銘柄は手に入りにくくなりましたね」。試飲したお酒のデータを板書する君嶋さんから、酒と料理の相性や酒蔵業界の裏話がポンポン飛び出してきます。その間、配られたお菓子をつまんでいた参加者からも、「五百万石は最近の猛暑で育ちにくいみたいですね」といったうんちく話が出て、教室は賑やかで和やかな雰囲気に包まれていました。

各銘柄の試飲がひと回りすると、「これは燗で試してみましょう、あえて微熱にしてみました。38.5℃。うすにごりって燗にしない人が多いけど、おいしいんですよ」

ひと口のんだ参加者同士、顔を見合わせるとぱあっと笑顔が広がります。

教室に漂う甘くやわらかいお米の匂い。日本酒に目がない私は思わずのどが鳴りました。

若手の頑張りを語る

君嶋さんは、明治25年創業の130年以上続く酒販店「横浜君嶋屋」4代目。国内外で様々なお酒の研鑽を積み、無名でも質が良く生産者の顔が見えるお酒を扱う「セレクトショップ」をモットーに、社長業の傍ら各方面でお酒の魅力を精力的に発信し続けています。

日本酒の消費量は1973年から落ち続けていて、理由はお燗で飲む人が少なくなったから、と君嶋さんは分析します。醸造アルコール(*3)を添加したお酒を70℃くらいの燗で飲むのが主流だった時代から、淡麗辛口を冷やで飲む時代を経て、近年は純米酒(*4)が注目されているそうです。「いま若い造り手らがほんとうに頑張っています」。各地の蔵元と親交のある君嶋さんがその活躍ぶりを伝える口調は、親しい親戚のことを語るかのようでした。

君嶋さんだから集う

講座終了後、君嶋さんは真っ先に初参加の人の席へ向かい、「どうでしたか?」と声をかけていました。

「初めは緊張したんですが、教室の雰囲気が親しみやすかったので、すぐにお話と日本酒の味を楽しめるようになりました」と一人が話してくれます。すかさず、リピーターの方から「君嶋さんだからみんな集うんですよ」と声がかかりました。今回の講座後は、場所を移して「懇親会」と称した二次会があるそうです。

君嶋さんが自信をもって紹介する貴重なお酒を試飲しながら日本酒の奥深さを学び、酒蔵や造り手の進化と奮闘を知る。そして同じ熱量で酒に向き合う人同士で語り合う。

「いいお酒を飲み、心が豊かに優しくなり、人と人とが仲良くなる」そんな講座を目指していますと語ってくれた君嶋さん。来期は燗酒の魅力がテーマです。ぜひ参加してみませんか。


【注】君嶋哲至監修「日本酒の図鑑」(KADOKAWA)より引用

*1生酛:空気中にある自然の乳酸菌を取り込んで造る昔ながらの酛(もと)。それを使用して酒を造ること、または造られた酒を生酛仕込みという

*2精米歩合:精米した際に、残った白米部分の割合をパーセンテージで表した値。数値が小さくなるほど、精米歩合が高いことを示す

*3醸造アルコール:デンプン質物、または含糖質物を発酵させ蒸留してつくられるアルコールのことで、日本酒には香味の調整や防腐効果のために添加される

*4純米酒:米、米麹、水のみを使って造られた酒

講師プロフィール

君嶋 哲至

君嶋 哲至(きみじま・さとし)

株式会社横浜君嶋屋代表取締役。1960年横浜生まれ。〝角打ち〟と呼ばれる立ち飲みのある酒屋に生れ育ち、常連のお客さんらに可愛がられて育つ。横浜君嶋屋本店、銀座君嶋屋、恵比寿君嶋屋の店舗でのワインと和酒卸販売、ワインの直輸入のほか、スタンディングバーや酒場も手がける。日本ソムリエ協会監事でもあり、書籍の監修や講演などによりお酒の魅力を国内外へ積極的に発信。ミュージシャンとしても活動しており、音楽とお酒とのコラボレーションで横浜を盛り上げるイベントなどで活躍中。International Wine challenge SAKE部門パネルチェア、SSI名誉酒師酒匠、Yahoo!Japan日本酒選定委員。

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この連載について

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