【朝カルTimes: vol.31】「城のない城」の魅力を探る(千葉)
※千葉教室は、2025年9月末日をもって営業を終了しました。

城ブームが続いていますが、お城好きには見逃せない講座が千葉教室にあります。 講座は「もっと知りたい日本の城」。講師は、父親も著名な歴史学者の小和田泰経さんです。講座の特徴は、天守閣がある城はもちろん、現在では痕跡が全くない城についても、江戸時代の絵図を読み解き、当時の城の構造を追求している点です。「城のない城」の魅力とはいったい、何でしょうか。現場の「城」にも行ってみました。(千葉教室長・田中敏行)
掲載日:2025年3月13日
関宿は利根川水系の重要地域
1月期のテーマは「生保城絵図で読み解く関東の城」。2回目の2月5日、「関宿城」を私も受講しました。この日の教室受講者は2名、オンライン受講者が多い講座です。
「きょうは関宿城という余りなじみのない城。千葉県野田市にあり、前回取り上げた茨城県の古河城の支城みたいな扱いで、当時は千葉も茨城も一緒くたの認識でいたと思います」と、小和田さんは語り始めました。関宿の場所は、関東平野のほぼ中心にあり、利根川中流部に位置する下河辺荘の一地域。利根川、荒川、渡良瀬川、江戸川、隅田川が入り組んだ荘園です。平安から鎌倉、室町時代にかけて下河辺荘の歴史や経緯の説明が続きます。

下河辺荘は平安時代末期に、下河辺行義、行平父子が開発したことから始まります。鎌倉時代には源頼朝に臣従し、下河辺氏が没落した後は執権北条氏が支配、南北朝時代には鎌倉公方の御料所となり、下河辺荘は関東地方で大変重要な地域だった、と指摘します。
スクリーンには鎌倉府の奉公衆の簗田氏の略系図を映写します。「梁田満助は娘を鎌倉公方に嫁がせている。去年の『光る君へ』ではないですけど。鎌倉公方の母方のお祖父さんですからね、大変な権力ですよね」「下河辺荘の一部が梁田氏に下賜され、下河辺荘に本拠を移した梁田満助氏が築城したとされるのが水海城。現在の利根川水系に位置している城ですが、遺構が残っていないのでどこにあったのか分かっていない。古地図や文献によるとこのあたりでしょう」と地図をスクリーンに映します。
「利根川の河岸にありますが、いくつも河川が入り乱れ、その水運を利用する。城には、敵から襲撃を守るというだけでなく、川を渡って来る船を押さえる役割もありました」と、小和田さんは説明を加えます。1457年には梁田成助が関宿城を築城。利根川の水運を掌握し経済力を持った城主の梁田氏と、「一国に値する」と関宿城を高く評価していた小田原北条氏が関宿城をめぐり3度にわたって戦いを繰り広げた経緯についても紹介します。
絵図に見る「土塁は一石二鳥」
スクリーンに江戸時代に作成された1枚の城絵図が映し出されました。小和田さんが絵図を基に解説します。「旧利根川(現在の江戸川と利根川)の河岸に関宿城が築かれている。河川の氾濫が結構あったようで、周囲に土塁を築いている。この絵図の緑で書いているのが土塁。城を土塁で囲んでいる。これは防御のためというのもありますが、利根川の河川の氾濫を抑えるため」と。徳川家康が着手した利根川の東遷事業や、今と昔の川の姿を比較し、「利根川と江戸川の結節点。大変な水運の要衝だった」と指摘します。

「現在の関宿城は近代の河川改修のため、遺構は破壊されている。西側の大半は利根川(現在の江戸川)河川敷とスーパー堤防になっている。近くを国道4号線が通り、今でも水陸の要衝です」
絵図には、船の行き来を監視する船番所があり、船でないと城には入れない造りを説明。城下を通って日光に行ける日光東往還や関宿城の曲輪、出丸も絵図で示されています。絵図を次々と映しながら、町ごと土塁で囲まれている惣構えについても解説。「軍事的には敵の侵入を阻むということもあるんですが、治水的には、洪水の被害を食い止めるために設けられているとも言えます。土塁は一石二鳥だったんです」
大手門跡の現在の写真も掲載。「ここはスーパー堤防で、今では分からないですね。若干ここに堀が残っているのは分かりますが」。発端曲輪、三の丸、二の丸、本丸なども昔の絵図で説明します。
小和田さんはこう締めくくりました。「本丸には本丸の御殿がありましたが、一部が近くの実相寺の客殿として移築されています。残念ながら、関宿城の遺構は残っていません。ただ道だけはおそらく当時のままとして残っている。ブラタモリ的に歩いていただくと、楽しめるところかなと思います」
建物なくても想像する楽しさ
講座終了後に、小和田さんに聞きました。
――受講者にはどんなことを理解してもらいたいですか?
お城は建物がなくても楽しめます。どのように敵から守ろうとしたのか、絵図を見ると分かります。攻めるならばどう攻めるか。どこから攻めてくる想定で造っているのか。築城者の意図を探るということですね。今、現在何も残っていないところでも地形として残っているところはあります。絵図を通じて、建物がなくても想像することはできます。
――改めて城の面白さとは?
地形をうまく利用していることです。人工的に造っているのではなく、地形によって場所によって、お城は全部違います。一つとして同じお城なんてない。土地に合わせて、川などを利用する。自然を利用しながら、人工的な知恵を組み込んでいます。見て分からないお城も、どういう背景があるのか、絵図を見れば分かります。かつてのお城を想像できるようになると、楽しくなります。
【現場を訪ねて】
初夏の陽気となった3月初旬、都内から電車とバスを乗り継ぎ2時間余りかけて、千葉県野田市北端の現場を訪れました。現在の江戸川河川敷沿いの関宿城跡は、木の下に石碑と看板があるだけで何もありません。江戸川と利根川の結節点で、周辺一帯は、さえぎるものがない平地が広がっています。かつて水運で栄えた関東の要衝だったことに思いを馳せます。



近くの白い模擬櫓が目を引く千葉県立関宿城博物館へ。江戸時代の利根川東遷など河川改修や関宿藩の歴史について展示されていて、4階の展望室からは、利根川と江戸川の流れを間近に見ることができます。江戸時代の城絵図の一部も展示してありました。関東平野のど真ん中にある「関東のへそ」。ブラタモリ的に歩いて、関宿周辺の地勢を実感しました。
講師プロフィール

小和田 泰経(おわだ・やすつね)
静岡英和学院大学講師 歴史家、静岡英和学院大学講師。家系は武田信玄の家臣馬場信房(信春)にルーツ。国学院大学大学院文学研究科博士課程後期退学。専攻は、日本中世史・対外関係史。著書に『家康と茶屋四郎次郎』(静岡新聞社)『戦国合戦史事典 存亡を懸けた戦国864の戦い』(新紀元社)『天空の城をゆく』(平凡社)『真田三代戦国歴史検定[公式]テキスト』(ぴあ)など。
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