【朝カルTimes:vol.28】ボイトレ 画面越しでも熱く(新宿)

朝日カルチャーセンターのオンライン講座は人文系の内容だけでなく美術、音楽、健康など様々なジャンルにも広がっています。先生も受講者も教室にいない「完全オンライン形式」も定着してきました。今回の朝カルTimesは、岡山県倉敷市の自宅からボイストレーニングの講座を完全オンラインで実施している川井弘子先生の「歌う人のためのはじめての解剖学」を紹介します。(新宿教室長・気賀沢祐介)
掲載日:2025年2月21日
声と体の関連性を解明
1月の講座はオンラインになって47回目でした。以前は新宿教室でのリアル講座でしたが、オンライン形式になって5年目に入ります。体の構造と声を出すこと、歌うことの関連性を解明していくシリーズです。この日のテーマは「表情筋と内臓とノド」。顔の筋肉の使い方が歌うことにどのように影響するのかを明らかにするのがねらいです。

「歌う時、『口角を上げて、笑って』とよく言われますが、やり方によってはすぐに固まってしまいます。まずこのあたりから説明していきましょう」。パワーポイントを使った説明が始まります。「表情筋はほかの筋肉と違って、骨から皮膚に付いています。そして、うれしい悲しいなどの感情を伴って動く筋肉です」。トカゲのような脊椎動物や人体のちょっとグロテスクな解剖図が次々と画面にアップされます。「顔の筋肉はもともと内臓の消化管につながる一番上の筋肉です」「口から目に向かっている小頬骨筋という筋肉がここにあります」…。どの筋肉がどこにつながり、どんな役割を担っているのかを解説していきます。まるで生物の授業のようです。
「口を開けようとして頰筋に力が入ると、喉の周りの筋肉も緊張して、音程を変える繊細な動きの調整ができなくなります」。このあたりで、ようやく筋肉と歌うこととの関係が見えてきました。

次は先生による実演です。自らのピアノ伴奏で、口を大きく開けたり、すぼめたり、頰の筋肉を手で押さえたり離したりしながら、声の高低や響き方、明るさ暗さがどのように変化していくのか、身ぶり手ぶりを交えて説明します。「自分が何をしているのか、顔の筋肉のどういう動きが声の出を妨げているのか、分かることが大切です。鏡を見ながら練習するといいですよ」。エネルギッシュで話術巧みな解説に、画面から熱が伝わってくるようです。
歌手と指導者の二刀流
川井先生の経歴には「ソプラノ歌手」と「音楽教育家」の二つの肩書が書かれています。リサイタルを開催し、各地で指導もしています。最近のはやりでいうと「歌うこと」と「教えること」の「二刀流」です。
子どもの頃は音楽か国語か生物(このあたりが今につながっていますね)の教諭になろうと思っていたそうです。高校3年生の夏に、コンクールで初めてイタリア語の歌を歌い入賞したのをきっかけに音楽の道に。広島大学教育学部から東京学芸大学の大学院を修了。さらにドイツにわたり声楽を学びました。そんな中で見てきたのが、「自分は歌えるけど、生徒は苦悩する歌手」と「理論はあるけど、実はその理論が歌うことを邪魔する研究者」。自分は実技と理論の間を埋める存在になりたいと思い、たどり着いたのが「解剖学からのアプローチ」だったといいます。自らが困ったことを解決するためのスキルとして体のことを学びました。体の構造を理解して心身の緊張を取り除くアレクサンダー・テクニックやボディ・マッピングの理論から、解剖学の要素を加えた指導法を考えました。高校や大学で教鞭をとる中で、聞き手を引きつける「話術」も磨かれたようです。

指導や本の出版などの活動を続け、2018年から朝日カルチャーセンター新宿教室に出講。オンラインへの転機はやはり新型コロナの流行です。自宅のある岡山県から動くことが難しいことから、2021年から完全オンライン講座に踏み出しました。実技系の講座だけに難しさもあったといいます。
「オンラインだと当然、直接的なやりとりが出来ません。受講者へのちょっとしたアドバイスやフォローも難しい」。ただ、受講者は全国のどこにいても講座に参加できる。加えて、見逃し配信を何回も見て復習できる。「このメリットは大きいです」。実際、現在の受講者の方は、東北地方から九州までの広い地域から参加されています。キャリアも歌を愛好する人から、合唱の指導者、学校の先生など様々です。
講座は先生が話す講義形式ですが、一方通行にならないように講座後に受講者には感想や疑問・質問をアンケートに書いてもらい、次回、先生が答えるという流れも定着しています。
講座中の相談にも助言
この日も、受講者からの「よく『声を前にあてなさい』と言われますが、どこにあてればいいのでしょうか」という悩みに答えました。
「『声があたる』というのは、よく使われる表現ですが、できたときの“結果”をあらわす言葉です。ですので、その先生に『前にあたった声』とそうでない声の見本を示してもらい、感覚をつかむのがいいでしょう。私自身は『声を前にあてて』とは注意しません。なぜなら、どこかに当てようとすると、すぐに声が詰まるからです」
講座の途中でも、チャット機能を使った質問が寄せられます。「歌う時に奥歯を離してと言われました」という声には、「上の歯は頭蓋骨の一部ですが、下の歯はあごにくっついています。そしてあごの関節は、耳の前にあります。耳の後ろではありません。でも、頭が前に落ちないように、体全体からも感じた方がいいですね」
5月24日には、「オンライン講座50回」を記念した「特別編」として、新宿教室でリアルとオンラインを併用したハイブリッド講座も計画しています。「受講者の方にも歌ってもらい、実際に指導することで、日頃困っていることの解決策が具体的にわかりますよ」。どんな講座にするか、現在アイデアを練っている最中で、初めて参加の方や初心者の方、もちろんベテランの方も学生さんも、大歓迎だそうです。

歌うことに悩みを抱えている人、ご参加をお待ちしています。
講師プロフィール

川井 弘子(かわい・ひろこ)
ソプラノ歌手・音楽教育家。シュトゥットガルト音楽大学、オランダ政府給費留学生としてユトレヒト音楽院に学ぶ。2001年から「ボディ・マッピング」指導者として、”動きにおけるからだ”の情報を提供。その後、アレクサンダー・テクニークやボディ・マッピングにとどまらず、「ソマティックなアプローチから歌うことが、本来の発声を促す」ことを発見。2015年に発刊の解剖学を取り入れた「うまく歌える『からだ』のつかいかた~ソマティクスから導いた新声楽教本~」(誠信書房)は、音楽書のベストセラー。最新刊に『歌う人のためのはじめての解剖学~しなやかな発声のために~』(誠信書房)。
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この連載について
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