【朝カルTimes:vol.3】西洋美術史の王道 『変化』から見る(横浜)

よく知られた絵画や彫刻、建築を読み解きながら、古代から近代までの西洋美術の歴史を一年かけて解説します。「かなり有名な作品を並べているので、どこからでも聞いてください、という感じでやっています」。講師の新保淳乃さんがそう話す講座「名画でたどる西洋美術史」は、6月の講義から時代が「ルネサンス」に入りました。どんな名画から、何が語られたのでしょうか。(横浜教室長・蝶名林薫)

掲載日:2024年7月2日

一点透視画法の衝撃的な新しさ

新保さんが意識しているのは「時代の流れ」。「ただ何年に何がありました、ということではおもしろくないじゃないですか。時代の流れを、それぞれの違いとか特色、覚えやすいポイントのようなことを意識してお話ししています」

まず取りあげたのはイタリアの彫刻家・建築家、ブルネッレスキ(1377~1446年)です。その名前は知らなくても、レオナルド・ダビンチ「最後の晩餐(ばんさん)」(1498年)に象徴される遠近法を生みだした人物と言われれば、イメージがわきます。

固定した一点から見ると平行線が遠くの一点に収斂(しゅうれん)して見えることを観察し、それを平面に写し取る方法として「一点透視画法」を開発。その後、絵画にも応用されました。

一点透視画法について説明する新保淳乃さん

「実際にある空間を絵で写し取るにはどうするんだろう。この作図法を使うことによって、絵画がとても立体的で現実的で、その場にいるような写実的なものが描けるようになります」「ルネサンスに始まったものが、現代までずっと絵画芸術を支配するようになるという、それくらい衝撃的な新しさでした」

新保さんは「新しい技術がモノの見方を変えていくという典型例」と解説します。

ルネサンス 創始者の表現は別格

続いて、ブルネッレスキからたくさん影響をうけたフィレンツェの画家、マザッチオ(1401~1428年)の登場です。「ルネサンス絵画の創始者。残念ながら早く亡くなり、活動時期が短い。作品数はとても少ないが、重要なことをやりました」

紹介したのは、イタリア中部フィレンツェにあるブランカッチ礼拝堂の壁画。しっくいを塗った壁に描くフレスコ画の連作の一部を彼が任されました。

ブランカッチ礼拝堂のフレスコ画。左手前上段がマザッチオの「楽園を追放されるアダムとエバ」©Web Gallery of Art

礼拝堂に入って最初の作品「楽園を追放されるアダムとエバ」では、「2人の体が浮き出ているのが感じられる」といいます。同時代の画家の「のっぺりして平面的な」作品とも比較して、「ハイライトや細かい陰影の処理が全然違う。マザッチオの表現は別格です。解剖学を意識した立体的モデリング。中に骨や筋肉があって、皮があって、しかもそこには感情が宿っている。まさに人間がいる。この新しさは全然違うものになっています」。

今回、新保さんは「マザッチオってすごく大事なんですが、一般的な知名度が低いので、『マザッチオってすごいんだよ』ということを言いたかった」そうです。

高3のラジオで『絵画を読む』運命

イタリア美術史を専門とし武蔵大や明治大で非常勤講師を務める新保さん。高校3年生のとき、英会話を聞いたラジオをつけっぱなしにしていたら、若桑みどりさん(千葉大名誉教授、故人)が大学で講義する様子が流れてきました。それを聴き、「絵画を読む」ことに興味をもったそうです。

「ものすごくおもしろくて。今だとイコノロジー(図像解釈学)は当たり前ですが、若桑先生はそのイコノロジーを1980年代に日本にどんどん広めた方で、それを初めて聞いたときは衝撃でした」。若桑さんが教える千葉大へ進学し、その後ローマ大に留学するなどして専門を深めてきました。「ほんとにたまたまラジオで聞いただけなので、勝手に『運命』だって思っています」

講座では来年3月まで、ダビンチ、カラバッジョ、フェルメール、ミレー、モネなどの有名作品が続々と登場します。「歴史や社会、政治、経済の変化はすべて表現の違いに対応するので、人の社会がどう変わってきたか、歴史がどう変わってきたのかを美術で見るという視点は大事にしていきたい。有名作品はなぜ有名なのか理由があるわけです。たんに有名で知っている、というのではつまらない。美術史の王道をまずしっかり見ることが一番おもしろいんですよ、と伝えたいんです」

講師プロフィール

新保 淳乃

新保 淳乃(しんぼ・きよの)

1973年群馬県生まれ。千葉大学大学院博士課程修了。文学博士。ローマ大学留学、日本学術振興会海外特別研究員を経て、現在は武蔵大学、明治大学などの非常勤講師。専門はイタリア美術史。共著『聴覚のイコノグラフィア』『味覚のイコノグラフィア』『憧憬のアルストピア』『天空のアルストピア』『新生のアルストピア』『叡智のアルストピア』『迷宮のアルストピア』(ありな書房)、『ひとはなぜ乳房を求めるのか』(青弓社)、『論点・ジェンダー史学』(ミネルヴァ書房)など。

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