人間と魚が合体した姿の人魚、英語ならマーメイド「海の乙女」です。日本では、人魚の肉を食べたため八百歳まで生きたとされる伝説の八百比丘尼がいます。曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』でも、人魚の肉を食べると寿命が三千年になると語られ、身体に塗れば厳寒の水中でも凍えず、刀剣に塗れば鉄をも斬るという「人魚膏油」が登場します。古代ギリシアでは、歌声で船乗りたちを惑わすセイレーンが、古くは鳥人間の姿で表され、後世になると魚の尾をもつ姿でも描かれるようになりました。夏目漱石も人魚に関心があったようで、『三四郎』には、ウォーターハウスの《人魚》を思わせる絵が印象的な場面があります。 この講座では、世界の神話と伝説からさまざまなタイプの人魚を紹介していきます。人間と魚の要素を半分ずつ持つ人魚は、 鳥の姿を取る天女についての羽衣伝説や、出産時にワニの姿になる日本神話の豊玉姫などとも比較できる神話的な存在です。なぜ人々は人魚を語り、描いてきたのでしょうか。さまざまな伝承をたどりながら、人魚という不思議な存在について考えます。(講師・記) 画像:《テラコッタ製のセイレーンの小像》(紀元前550〜500年頃)メトロポリタン美術館蔵
松村 一男:まつむら・かずお 和光大学名誉教授。1953 年、千葉県生まれ。一橋大学社会学部卒業。東京大学院人文社会科学研究科中退。アメリカ・カリフォルニア大学ロサンゼルス校博士課程留学。1989〜1999年、天理大学勤務、1999〜2024年、和光大学教授を経て現職。国際比較神話学会(IACM)理事。 著書に『神話学入門』、『女神誕生』(いずれも講談社)、『神話思考』I〜III(言叢社)、『世界のはじまりの神話学』(KADOKAWA)など。 翻訳・共訳・監修にエリアーデ『世界宗教史』(筑摩書房)、『ゲルマンの神々』(国文社)、タイラー『原始文化(上下)』(国書刊行会)、リュプケ『パンテオン』(東京大学出版会)、デュメジル『神々の構造』(講談社)など。 共編著に『比較神話学の展望』(青土社)、『神の文化史事典』、『神のかたち図鑑』(いずれも白水社)など。
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