「近代天皇制」の特徴の一つは神聖天皇崇敬である。アジア・太平洋戦争の末期に、「玉砕」が語られ、「天皇陛下万歳」と叫んで生還の見込みのない突撃が行われたが、それは急にそうなったわけではない。1941年に陸軍大臣東條英機名で出された『戦陣訓』に「生きて虜囚の辱を受けず」 とあるが、こうした軍隊の規範意識は軍旗喪失の責任を担おうとして乃木希典が明治天皇に殉死し、多くの国民が乃木賛美の声に加わったことと関わりがある。こうした天皇の神聖化は御真影への礼拝を強いた学校によっても押し進められた。こうした天皇の神聖化を歴史的にたどると明治維新後にその大枠が定められている。祝祭日の制定、皇室祭祀の重視、そして「皇道宣布」の諸策が進められた。明治中後期に明治聖徳論ができ、天皇の「御製」が尊ばれるようになる。さらに、「大逆事件」「不敬罪」「治安維持法」などの治安、「恩賜」などの言葉で示される慈恵の側面もある。イデオロギーとしては国体論、宗教としては国家神道が重要だが、神聖天皇崇敬を通してやがて国民が全体主義的な体制の担い手になっていく過程も軽視することはできない。(講師・記) 第1回 明治維新後の天皇の神聖化過程 第2回 聖徳論、治安、慈恵がもたらしたもの
島薗 進:専門は宗教学、死生学。1948年東京生まれ。上智大学グリーフケア研究所客員研究員、東京大学名誉教授。大正大学客員教授、龍谷大学客員教授、曹洞宗総合研究所講師、NPO東京自由大学学長。日本宗教学会元会長。宗教理論の研究、日本宗教史の研究、死生学、公共哲学、生命倫理などを研究領域とする。日本宗教学会賞、湯浅賞、朝日賞を受賞。著書に、『宗教学の名著30』、『いのちの始まりの生命倫理』、『スピリチュアリティの興隆』、『国家神道と日本人』、『日本仏教の社会倫理』、『日本人の死生観を読む』、『宗教を物語でほどく』、『いのちを“つくって”もいいですか?』、『ともに悲嘆を生きる』、『教養としての神道』、『死生観を問う』、『なぜ「救い」を求めるのか』などがある。
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