19世紀前半、写真の発明は世界の見方を大きく変え、現在に繋がる視覚文化が誕生しました。本講座では、その変容について「人間はなぜ写真を必要とし、そこに何を託してきたのか」という視点から読み解いていきます。具体的には、19世紀の急速な視覚技術の拡大、肖像写真に託された欲望や社会的機能、「芸術写真」という考え方の成立、雑誌『ライフ』を中心とする報道写真の時代、20世紀後半に到来する情報社会における写真表現、そして21世紀における写真文化の転換までを、多くの名作や事例を通して辿ります。写真を学びたい方はもちろん、現代社会における映像の役割について考えたい方にもおすすめです。(講師・記) 【カリキュラム】 第1回 写真の発明とデジタル社会 1839年の写真発明から21世紀の現在まで、写真は「現実を記録する技術」と同時に「世界を計測して再構成する技術」を一貫して追求してきました。現在は、スマートフォン、生成AIの時代になりましたが、その欲望はすでにこの頃芽生えていたのです。現代のデジタル社会の原点を、19世紀の写真技術の発展に見出します。 第2回 19世紀の肖像写真:魅力と用途 写真が発明されると熱狂的な肖像写真ブームが到来します。19世紀の人々はなぜ肖像写真を求め、どのように使ったのか。名刺写真、家族写真、死者の肖像、政治家の宣伝写真、犯罪者の記録など、近代社会の成立とともに広がった肖像写真の文化と制度を通して、顔を撮ることの意味を考えます。 第3回 「芸術」と「芸術写真」 写真は芸術なのか。この問いは長きにわたって写真家たちを悩ませ続けました。その試行錯誤の中から、独自の性格をもった近代的な表現として見いだされ、結果として芸術そのものの価値観を更新しました。19世紀後半から1920年代までの美術と写真の関係をたどり、写真表現がどのように受容されていったのかを概観します。 第4回 報道写真の時代:雑誌『ライフ』の影響 20世紀、写真はジャーナリズムの主役となりました。なかでも1936年に創刊された雑誌『ライフ』は、報道写真が世界を変える力をもったことを示した、象徴的なメディアです。しかし、それはアメリカの価値観を広めるという機能もありました。同誌が廃刊する1970年代まで、報道写真の全盛期を振り返りながらその影響を再考します。 第5回 情報社会の写真表現 高度経済成長期、新聞や雑誌などのマスメディアの発達にともなう情報社会が到来し、写真は「情報」としての性格を強めていきました。スターの肖像、グラビア、広告、事件写真―。イメージは日常空間にあふれ、瞬時に消費されていきました。しかし、その氾濫は若い世代に新たな感覚を与え、「現代写真」と呼ばれる新しい表現を生み出していきます。情報社会と写真表現の関係を読み解きます。 第6回 デジタル時代:写真文化の変容 1990年代半ば、フィルムからデジタル写真への移行が始まります。誰もが大量に撮影し、インターネット上で瞬時に共有し、加工できる時代が到来しました。一方で、写真を必要とした紙媒体は没落していきました。写真をめぐる生活文化や表現の変化をたどりながら、デジタル時代の「写真とは何か」を考えます。 *** 【広報画像】 @1839年1月にフランスで公表された「ダゲレオタイプ(銀板写真)」 Aロベール・ドマシー《赤の習作》(1898) B雑誌『ライフ』の表紙(1945年4月9日号)
鳥原 学:(とりはら・まなぶ)写真評論家。1965年生まれ。近畿大学卒業。日本写真芸術専門学校主任講師、東京造形大学非常勤講師、武蔵野美術大学非常勤講師。日本の写真史を中心テーマとし、近年はデジタル社会における写真文化の変容について執筆。大学や専門学校などの写真教育、写真展の企画にも携わっている。2017年日本写真協会賞学芸賞受賞。著書に、『日本写真史(上)――幕末維新から高度成長期まで』(2013)中公新書、『日本写真史(下)――安定成長期から3・11後まで』(2013)中公新書、『写真のなかの「わたし」――ポートレイトの歴史を読む』(2016)ちくまプリマー新書、『教養としての写真全史』(2021)筑摩選書、他。
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