ニュートリノはとても軽く、電荷を持たない粒子です。宇宙誕生時のビッグバンの火の玉の中で大量につくられました。それ以来、宇宙に満ちて存在し、1立方メートルあたり約300個が高速で飛び回っています。現在の宇宙でも太陽などの内部や超新星爆発などでも生まれ、ほとんど物質と反応せずに地球や人体も通り抜けていきます。実は、このニュートリノの性質は、宇宙の成り立ちを探る重要な手がかりとなります。本講座では、その理論と最新の実験について、第一線で活躍する研究者がわかりやすく紹介します。(郡和範講師) 画像:カニ星雲のX線画像。西暦1054年の超新星爆発時に、その爆発のエネルギーの約99%はニュートリノで放出されたと考えられています。 <各回のテーマ> @7/11「ニュートリノ入門――ニュートリノとは何か?」佐藤丈・横浜国立大学教授 ニュートリノは私たちの身の回りに溢れていますが、人体をも悠々と通り抜けるため、普段その存在を認識することはありません。この「幽霊粒子」がなぜ理論的に予言され、いかにして実験的に発見されたのか。そして最新の研究によって、その驚くべき正体がどのように解明されてきたのかを紐解きます。かつて素粒子の標準理論で「質量ゼロ」と定義されたニュートリノの性質が、2015年のノーベル物理学賞に象徴される発見によっていかに覆されたのか。ニュートリノ研究の劇的な歴史と、宇宙の謎に迫る最前線を解説します。 A8/22「次世代ニュートリノ振動実験―ハイパーカミオカンデとは何か?」塩澤眞人・東京大学宇宙線研究所教授 ハイパーカミオカンデは巨大な水槽と高性能光センサーで、素粒子や宇宙進化の謎に挑む国際研究です。陽子崩壊やニュートリノの研究方法とそれらの意義、建設中の実験装置を紹介します。 B9/26「超新星はなぜ爆発するのか――ニュートリノが握る星の最期」滝脇知也・国立天文台准教授 巨大な星は一生の最後に、自らの重力で崩壊し、超新星爆発と呼ばれる大爆発を起こします。しかし、「星はなぜ爆発できるのか」という根本問題は、実は現在でも完全には解明されていません。その鍵を握るのが、星の内部から莫大なエネルギーを運び出す「ニュートリノ」です。講座では、1987年に初めて観測された超新星ニュートリノから、最新の三次元シミュレーション研究、さらにはニュートリノ振動が爆発に与える可能性まで、超新星研究の最前線をわかりやすく紹介します。将来の銀河内超新星観測によって、何が明らかになるのかについても解説します。 C10/24「宇宙マイクロ波背景放射でニュートリノの質量を測る―サイモンズ・オブザーバトリ実験とは何か?」田島治・京都大学教授 サイモンズ・オブザーバトリ実験は、ビッグバンの残光である宇宙マイクロ波背景放射を、チリ・アタカマ高地(海抜5,200m)から精密に観測する国際共同プロジェクトです。その観測によって、ニュートリノが宇宙初期のビッグバンに与えた影響や、宇宙の大規模構造に与えた影響が分析できます。特に、3種類あるニュートリノの質量の和が測れることが大きな特徴です。これと従来の研究結果(ニュートリノの質量差)を合わせることで、質量の絶対値が決まり、素粒子の大統一理論を解明につながると期待されています。 D11/7 「南極点で高エネルギーニュートリノをとらえる―アイスキューブ実験とは何か?」石原安野 ・千葉大学教授 目に見えず、ほとんど物質と反応せずに宇宙を飛び交うニュートリノ。この不思議な粒子を手がかりに、私たちは宇宙を「見る」ことができるようになってきました。講座では、南極点の氷の中に設置された巨大なニュートリノ望遠鏡「アイスキューブ」の仕組みと成果をご紹介します。特に、大質量ブラックホールや巨大爆発現象といった極限的な天体から届く高エネルギーニュートリノを通して、新たに明らかになりつつある宇宙の姿について解説します。 E11/28 「宇宙から反物質が消えた理由はニュートリノ―東海村ジェイ-パーク実験とは何か?」中家剛・京都大学 教授 宇宙は、陽子、中性子、電子で作られる物質からできて、反粒子(反陽子や陽電子)からなる反物質が存在しません。宇宙最初にビッグバンでできた反粒子はなぜ消えたのでしょうか?この大きな謎を解く鍵がニュートリノにあると考えられています。東海村にあるジェイ-パーク加速器で世界最高強度のニュートリノビームを300km離れた岐阜県神岡町にあるスーパーカミオカンデに向けて発射し、ニュートリノと反粒子である反ニュートリノの性質の違いを研究しています。その最新の研究について講演します。
郡 和範:こおり・かずのり 国立天文台科学研究部教授 1970年兵庫県生まれ。2000年、東京大学大学院物理学専攻博士課程修了。2004年、米ハーバード大学博士研究員。2006年、英ランカスター大学 研究助手、2009年、東北大学大学院助教、2014年、高エネルギー加速器研究機構准教授、2017年、英オックスフォード大学招聘准教授などを経て、現職。また、東京大学大学院天文学専攻・総合研究大学院大学・高エネルギー加速器研究機構・東京大学カブリIPMUの教員も兼任。研究内容は、宇宙論・宇宙物理学の理論研究(キーワード:ビッグバン元素合成,ブラックホール,ダークマター,ダークエネルギー,初期宇宙のインフレーション,重力波,バリオン数生成,宇宙初期の量子ゆらぎ,ニュートリノ,宇宙マイクロ波背景放射,21cm線放射,宇宙線,ガンマ線,X線,降着円盤,など)。著書に『宇宙物理学(KEK物理学シリーズ3)』(共立出版)、『宇宙はどのような時空でできているのか』『「ニュートリノと重力波」のことが一冊でまるごとわかる』(ベレ出版)などがある。
塩澤 眞人:東京大学宇宙線研究所教授 1968年生まれ。京都大学理学部卒。理学博士。東京大学宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設・教授。1998年朝日賞、2015年戸塚洋二賞受賞。スーパーカミオカンデ実験、T2K実験を進めるとともに、将来計画であるハイパーカミオカンデ実験のスポークスパーソン。
滝脇 知也:たきわき・ともや 国立天文台天文シミュレーションプロジェクト准教授 2008年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。東京大学、国立天文台、理化学研究所で研究員を務めたのち2016年国立天文台助教に着任。2022年より現職。重力崩壊型超新星の研究を中心に高エネルギー天体現象の研究を行っている。
佐藤 丈:横浜国立大学教授。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。東京大学宇宙線研究所COE研究員、学振研究員(@東京大学理学部)、九州大学大学教育センター助手、埼玉大学准教授、埼玉大学理工学研究科准教授 を経て現職。専門は素粒子論でニュートリノ物理学、大統一理論、レプトンフレーバー、素粒子的宇宙論など現象的側面を主に研究。著書に「 物理学の考え方を理解する 力学」(培風館)。
田島 治:京都大学教授。群馬県桐生市出身。 専門は、宇宙素粒子物理学(略してウソ物理学)。地下1,000 mでのニュートリノ実験や衝突型加速器を使った実験研究を経て、現在は海抜5,200 mから宇宙マイクロ波背景放射を観測する実験研究に携わっている。独自のアイデアを活かしたダークマター探索実験なども精力的に開拓している。
中家 剛:京都大学教授。大阪大学理学部卒業、同大学院終了、博士(理学)。趣味は山、釣り、スキー。好きな食べ物はカレー。
石原 安野:千葉大学教授 千葉大学国際高等研究基幹ハドロン宇宙国際研究センター教授。静岡県出身。2004年テキサス大学オースティン校大学院博士課程修了、Ph.D.(物理学)取得。テキサス大学、ウィスコンシン大学で博士研究員を務めた後、千葉大学にて特任研究員などを経て現職。研究内容は宇宙素粒子物理学。南極点の国際共同観測施設IceCube実験に参加し、高エネルギー宇宙ニュートリノの初観測に貢献。現在はIceCubeのアップグレードおよび次世代ニュートリノ望遠鏡IceCube-Gen2に向けた光検出器配列の設計・建設を統括。2019年仁科記念賞、2017年猿橋賞、2014年戸塚洋二賞受賞。
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