私たちが毎日を過ごす家や、当たり前に守っている日常の作法。その背景には、時代ごとに人々が追い求めた「理想の暮らし」の姿が隠れています。かつて家族の健康を守るために必死に「清潔さ」を追求した情熱。京都の町家に今も息づく、限られた空間を鮮やかに使いこなすための知恵。そして、海外の建築家が図面に描き、私たちが憧れたモダンな生活の夢。講座では、昭和から100年を経た日本の住まいがこの100年で何を捨て、何を手に入れてきたのかを、衛生とマナー、住まい方の知恵、そしてこれからの住まいの三つの視点からひもときます。見慣れたわが家の風景が、少し違って見えてくるはずです。(講師:記) 【各回のテーマ】 1.「きれい」な家ができるまで:衛生とマナーが変えた日本の家族と住まい 今の私たちは、清潔で整然とした空間を当たり前だと思っています。しかし、かつての日本の家は、もっとたくさんのものに囲まれ、季節ごとの行事や来客があり、外と内が混じり合った場所でした。明治から昭和にかけて、住まいに「衛生」を取り入れ、台所や玄関のあり方、さらには家族の座り方や食事の作法までを変えていった、生活改善と住まいの変化をたどります。 2.「住まい方」の知恵をたどる:京都の町家と都市の暮らし 限られた空間の中で、いかに秩序を持って、歴史的なものづくりを行い、文化の香りの高い豊かな街の雰囲気を守っていくか。京都の町家に見られる、空間を仕切る「しつらえ」や、客を迎え入れ日々の家事を円滑にするための工夫、京焼などの職住近接の長屋と路地の仕組みなど、都市の住まいに蓄積されてきた暮らしの知恵に注目します。そこには、現代の住まいにおいても、私たちの生活を整えるためのヒントが詰まっています。 3.モダン住宅が夢見た豊かさと私たちのいま 20世紀、欧米の建築家たちが提案した「モダンな住宅」は、新しい生き方への招待状でした。光あふれるリビングや、家族の団欒、独立した個室。その「理想の形」が、日本の土着的な生活習慣や身体感覚と出会ったとき、どのような変化が起きたのでしょうか。建築家の描いた夢と、私たちの日常が重なり合って生まれた、初期の公共住宅計画に込められた住まいの夢を考えます。
黒石 いずみ:東京大学工学部建築学科卒業、大学院修士課程修了後、設計事務所でデザイン業務に携わる。出産を経て博士課程に復学し単位取得退学。海外赴任の夫に伴い渡米して、ペンシルバニア大学芸術学部博士課程建築学理論コースに入学し7年かけて修了。P h.D.一級建築士。青山学院大学教授などを経て現在福島学院大学教授。専門は都市建築の歴史と理論、生活デザイン論、『建築外の思考―今和次郎論』(ドメス出版)『時間の中の建築』(鹿島出版会)『Constructing Colonized Land』(Ashgate)『Post war Public Housing and idea of Well-being』(Routledge)など。海外の街や村から東北の農漁村、東京、京都、津和野まで、各地の暮らしや物作りを考現学で探訪し、その魅力を探るのが天職。
筆記用具
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