「長く生きる」だけでなく、「どうすこやかに年齢を重ねるか」が、医療や科学の大きなテーマになっています。老化は単なる時間の経過ではなく、DNAの傷の蓄積、テロメアの短縮、エピジェネティクスと呼ばれる遺伝子の働き方の変化など、細胞やゲノムのレベルで少しずつ進む現象として理解されつつあります。 本シリーズでは、ゲノム科学の視点から、老化のしくみ、健康長寿をめざす研究、サプリメントや検査をめぐる情報、そして細胞の若返り研究までを取り上げます。話題性の高い「アンチエイジング」情報をうのみにするのではなく、どこまでが科学的にわかっていることなのか、何がまだ研究段階なのかを整理しながら、これからの健康と社会のあり方を考えます。(講師記) 【各回のテーマ】 ■第1回)なぜ人は老いるのか〜ゲノムとエピジェネティクスから考える老化のしくみ〜 同じ年齢でも、体力や見た目、病気のなりやすさには個人差があります。その背景には、生まれ持った遺伝情報だけでなく、生活習慣や環境の影響を受けながら、遺伝子の働き方が変化していく仕組みがあります。 DNAの傷の蓄積、テロメアの短縮、エピジェネティクス、エピジェネティック・クロックといったキーワードを手がかりに、「暦の年齢」と「身体の年齢」はどのように考えられているのかを整理。老化を“運命”としてではなく、生命のしくみとして読み解きます。 ■第2回)老化を遅らせることはできるのか〜サプリメント、生活習慣、老化細胞研究のエビデンス〜 NMN、サーチュイン遺伝子、テロメア、抗酸化、カロリー制限、運動、睡眠――健康長寿に関する情報は、書籍や広告、SNSにあふれています。しかし、基礎研究で示されたこと、動物実験でわかったこと、人で効果が確認されていることは、分けて考える必要があります。 老化を遅らせるとされる代表的なアプローチを取り上げ、科学的根拠の強さや限界を整理します。さらに、老化細胞、いわゆる「ゾンビ細胞」を標的にした研究など、ロンジェビティ医療の現在地を、期待と慎重さの両面から見ていきます。 ■第3回)若返り研究はどこまで来たのか〜細胞のリプログラミングと超長寿社会の未来〜 iPS細胞の技術につながる「山中因子」などの研究を背景に、細胞の状態を若い方向へ戻す「リプログラミング」研究が注目されています。 細胞の若返り研究の基本と、実用化に向けた課題を紹介します。あわせて、もし健康寿命や寿命が大きく延びる時代が来たとき、医療、家族、仕事、社会保障、人生設計はどう変わるのかを考えます。科学の可能性だけでなく、超長寿社会がもたらす倫理的・社会的課題にも目を向けます。
鈴木 美慧:すずき・みさと:一般社団法人CancerX、聖路加国際病院認定遺伝カウンセラー、一般社団法人日本サイエンスコミュニケーション協会理事。 2012年筑波大学生物学類(人間生物コース)卒業、14年お茶の水女子大学大学院遺伝カウンセリング領域修士号取得、20年お茶の水女子大学大学院遺伝カウンセリング領域博士課程満期修了退学。 一般財団法人武田計測先端知財団アシスタントプログラムオフィサー、公益財団法人がん研究会有明病院乳腺外科を経て、16年4月から聖路加国際病院遺伝診療センター。
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