デイヴィッド・リンチ監督の造形する映像は、美しいものと呪われたものが衝突する領域にあるといわれます。また、光と陰、表皮と肉塊、聖性と獣性といった相反する二重性の詩学であるといえるかもしれません。 しかしながら、その謎に満ちた伏線や表徴に隠されている「正解」を暴き出そうとしてみても、あるいは、その制作動機に心理学・精神医学の「症例」を貼り付けてみても、何も理解したことにはならないでしょうし、なによりもリンチの悦楽は逃げていくことでしょう。 今回は以下の後期2作品を取り上げて、イメージの渦と淀みに遊びたいと思いますー (1) 異色のロードムーヴィー『ストレイト・ストーリー』(1999年):時速8kmのトラクターの震動が呼び起こす生のリズム… (2) 最後の長編(3時間)映画『インランド・エンパイア』(2006年):とりとめもなく増殖してゆく平行世界のすき間に突発するダンス…
勝 道興:1961年生まれ。関西大学大学院博士課程修了(文学博士)。技術翻訳者(英/独/仏)。論考「異国の鳥たちのために」(『ユリイカ』1990年4月臨時増刊号)、著書『音響のオルガノン』(晃洋書房、2001年)、共著『センター現代文』(駿台文庫、2005年)、訳書『絵で見る哲学の歴史』(中央公論美術出版、2010年)など。2022年から朝日カルチャーセンター中之島教室において、舞踊、映画、音楽、装飾などを題材にした、哲学的ないしは比較思想的アプローチを試みる講座を継続しています。