中国文明の謎の一つに、漢字があります。漢字は私たちにもなじみ深い存在ですが、漢字が誕生したまさにそのころ、その使い方は今とは全く異なっていたようなのです。 紀元前1500年ころに成立した殷王朝では、亀の甲羅や牛の肩甲骨を使い、絶対神の意向を問う占いが盛んに行われていました。殷の王は占いの結果を読み解ける唯一の存在であり、それこそ王の権力の源だったのでしょう。それらの占いの道具に刻まれた文字こそが、最古の漢字、甲骨文です。殷に続く周王朝の時代には、漢字は主に青銅器の表面に銘文として記されました。周の青銅器銘文には、王の権力を高めるための心理的カラクリが仕掛けられていたのです。このように、中国文明において文字は単なる情報の伝達手段ではなく、王権と密接に結びついた、呪術的装置だったのです。 本講座では、出現期の漢字の姿を考古学の視点から検討し、どのような変遷を経て現在の漢字へと変わっていったのか、その過程を紹介します。言葉に込められた力を信じた当時の人々の社会を、一緒に俯瞰してみましょう。(講師・記)
角道 亮介:(かくどう・りょうすけ)駒澤大学准教授 1982年生まれ。千葉県出身。専門は中国考古学。北京大学考古文博学院への留学中、陝西省の周公廟遺跡にて西周時代遺跡の発掘調査に参加。2013年に東京大学大学院にて博士号取得。日本学術振興会特別研究員を経て、2014年より現職。主な著書に『西周王朝とその青銅器』(六一書房)、『地下からの贈り物―新出土資料が語るいにしえの中国』(東方書店、共著)、『北京大学版中国の文明1 古代文明の誕生と展開(上)』(潮出版社、翻訳)など。
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