ベートーヴェンのピアノ・ソナタ32曲(Op.番号付きの作品)は56年3カ月の生涯の最後の6年余を残し、51歳までのほぼ40年間に作曲されたものですが、交響曲第1番を発表した1800年から1805年までの間に11曲のソナタが書かれています。この時期には愛称《葬送》《月光》《テンペスト》《ワルトシュタイン》《アパッショナータ(熱情)》で知られる傑作の多くが生まれています。1802年秋の「ハイリゲンシュタットの遺書」を挟んだこの時期は創作期区分では「実験的ソナタ期」と「ドラマ的ソナタ期」と呼ばれる革新的表現の追究、言い換えれば、18世紀からの伝統的古典様式からの離脱を意識した時代となっています。11曲のソナタを通して、30代前半のベートーヴェンが各作品で追求していた革新の本質を探ってみたいと思います。(講師・記) **各回の予定** 1)再び4楽章ソナタ:メヌエット、ロンド、スケルツォ、葬送行進曲楽章の意味。 開始楽章でのソナタ形式回避と変奏曲による開始。第11、12番(Op.22とOp.26)。 2)ふたつの《幻想曲風ソナタ》:アタッカ連結(連続演奏)で作品全体の有機的統一志向。 終楽章へ重心移動と即興性の強調。ソナタ形式楽章開始の回避。第13、14番(Op.27)。 3)ソナタ形式楽章の第1楽章への復帰と新機軸、第15番(Op.28)。音楽進行阻害要素とその超克によるドラマ性の表現。陥没楽句と予測不能な転調、第16番(Op.31/1)。 頻繁なテンポ変化と多彩な進行阻害要素と即興性、そして全曲額縁構成、第17番(Op.31/2)。スケルツォとメヌエット楽章をもつ4楽章構成、第18番(Op.31/3)。 4)ペダル・ダンパー装備と音域拡張のエラール製ピアノによるダイナミズム表現の革新、第21番(Op.53)と《アンダンテ》WoO57と不思議な「ヘ長調」第22番(Op.54)。 5)4部分構成のソナタ形式の充実、緩徐楽章での変奏曲、終楽章へのアタッカ連結、多主題性と遠隔転調、第23番(Op.57)。
平野 昭:音楽評論家 1949年横浜生まれ。武蔵野音楽大学大学院修了。静岡文化芸術大学名誉教授、沖縄県立芸術大学客員教授、桐朋学園大学特任教授。前慶應義塾大学文学部教授。18〜19世紀の西洋音楽史研究。特にドイツ語圏の作曲家作品研究が専門領域。とりわけベートーヴェンの全作品の分析的研究。『ベートーヴェン』(新潮社)、『人と作品:ベートーヴェン』(音楽之友社)、『音楽キーワード事典』(春秋社)、『ベートーヴェン事典』(東京書籍・共著)、『ベートーヴェン大事典』(平凡社・監修と共訳)等。音楽評論家として放送出演や「毎日新聞」等執筆。
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