『平家物語』は実際にあった治承・寿永の内乱をテーマとした軍記物語です。戦いを主に描きつつ、平安時代から鎌倉時代へ、また、貴族中心の時代から武士が政権を担う時代へと移り変わる歴史を物語っていきます。従って、その登場人物の多くは武士などの男性なのですが、もちろん、彼らの周囲には母、妻、恋人、娘といった女性たちが存在し、ある時は共に生き、ある時はその死を見送るという役割を果たします。そうした女性たちの描かれ方は、読者の心情とも重なり、合戦叙述とは違った魅力をもって読む者の心を打ちます。また、彼女たちの物語は多くの場合創作なのですが、当時の女性の置かれた立場や境遇を物語り、女性史の一端をよく示すものとして大変興味深いものです。 本講座は、『平家物語』を中心に、時にはその他の軍記文学まで目を広げて女性の記事を取り上げ、彼女たちの生きた時代の歴史的背景や宗教の様相にまで目を配りつつ読みこみます。(講師・記) 第5回 小督と葵前の物語 今期は、能などでも知られた小督と、彼女と同じく高倉院に愛されながらも亡くなってしまった葵前という二人の女性の物語を読みます。自分の意志とは関係のないところで大きくうねっていく運命に翻弄されながらも、それを受け容れ、高倉院への愛情を貫こうとする彼女たちの姿は、私たちの心を強く揺さぶります。
清水 由美子:中央大学兼任講師 1957年神奈川県生まれ。東京大学大学院博士課程単位取得満期退学。博士(文学)。東京外国語大学、東京大学などの講師を経て、現在、中央大学、成蹊大学、学習院大学、清泉女子大学等講師。専門分野は日本中世文学、軍記物語研究。著書『平家物語を繙く』(単著、若草書房、2019年)、『校訂延慶本平家物語十二』(共著、汲古書院、2010年)など。論文「崩壊した母性 平時子と北条政子の母性をめぐって」(『清泉女子大学人文科学研究所紀要』2013年)、「作為としての母親像 二位尼平時子の造型」(『国語と国文学』2008年)など。
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