五賢帝時代(96〜180年)における帝位の継承は、前任者による後継者の指名によりました。暗愚な子息ではなく、皇帝の地位に相応しい人物が選ばれ、皇位継承のあるべき姿として後世に理想化されました。とはいえ、後継者となる嗣子がいなかっただけです。 実際、名君マルクス・アウレリウスの玉座は愚息コンモドゥスが継承します。暴君となったコンモドゥスが暗殺されると、帝国はまたもや混乱状態となります。暗殺を実行した親衛隊は、ローマ市長官の地位にあったペルティナクスに即位を要請します。彼の経歴は皇帝に相応しいものでしたが、その父親は解放奴隷でした。フラウィウス朝(69〜96年)から続いていた実力主義もここに至っては驚くほかはありません。彼の治世も3ヶ月ともたず、親衛隊の凶刃に倒れます。続く皇帝は、ディディウス・ユリアヌスでした。親衛隊は帝位を競売にかけ、最も高値をつけた彼が競り落としたのです。偉大な帝国の茶番劇でした。 この状況を知った、帝国の国境地帯に駐屯する軍団の中から、ユリアヌスに取って代わるべく名乗りを挙げる人物が複数現れます。いち早くイタリアに至り、帝位を獲得するのがセプティミウス・セウェルスです。この人物もローマ人の血を全く引いていなかったという点で特異な存在です。帝国は新しい時代に突入することになります。 (講師記) <各回カリキュラム(予定)> 1 10/1 五賢帝時代の終焉 名君の愚息コンモドゥス 2 10/15 競売にかけられた帝位 混乱の渦中の皇帝 3 10/29 セプティミウス・セウェルス 新王朝の誕生 4 11/5 偉大な帝国の復活 辺境における帝国軍の勇躍 5 11/19 カラカラとゲタ 憎しみ合う兄弟の末路 6 12/3 王朝の一時的な断絶 繰り返される暗殺劇 7 12/17 王朝の復活と滅亡 深淵への転落の始まり
倉橋 良伸:電気通信大学講師 1962年生まれ。上智大学大学院文学研究科史学専攻博士後期課程単位取得。専攻は、後期ローマ・初期ビザンツ帝国史。著書に『地中海世界史T 古代地中海世界の統一と変容』、『歴史学の現在5 再生する終末思想』(以上共著・青木書店)、『古代地中海世界 古代ギリシア・ローマ史論集』(共著・清水弘文堂)、『彷徨−西洋中世世界』(共著・南窓社)、『躍動する古代ローマ世界』(編著・理想社)など。
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