去年は当府に御入り、初春の出合初笑の興もめづらしく候へば、ひとしほことし御なつかしく存じ奉り候。まれまれなる雑煮を御振舞ひ申し候〈めったに作らない雑煮を食べていただきましたね〉―元禄7年1月29日曲翠宛書簡より― 伊賀上野の無足人(士族から農民に下った身分)の次男として生まれた芭蕉は、城主藤堂新七郎家に奉公に出されます。そこで料理人として働いていたという説もありますから、料理上手で、ものの味の分かる人だったのでしょう。門人からさまざまな食材が贈られ、それらへの感謝が書簡にたびたび綴られています。 書簡は二百あまり現存します。中には、俳諧に対する考え方が示されたものもあり、俳諧研究の第一級の資料となっていますが、この講座で取り上げるのはそれではありません。芭蕉が、どんな食べ物が好きだったか。どのように生活のやり繰りをしていたか。どのように健康に気を配っていたか。弟子をどのようにほめて励ましていたか。これらから、気づかいの人であった芭蕉が見えてきます。そして、弟子の離反、弟子同士の確執、弟子の死、身内の不幸。これらの出来事に対する怒りや嘆きの底に、静かな寂しさを感じるのは私だけではないでしょう。そして、突然訪れる、自身の死。その際の遺言の、日常的とでも言えるような、あまりの普通さ。小春日の陽射しのように透明で、そこには「諦念」とか「悟り」とか「達観」などというありきたりな言葉を遥かに超えた、「平和」があります。ぜひ、一緒に読んでみましょう。必ず何かが得られるはずです。資料はすべてこちらで用意します。(講師記)
浅生田 圭史:俳人 『古志』元編集長 1964年横浜生まれ。平成6年より長谷川櫂(古志)に師事。著書に句集「獅子」、評論集「俳句の時代」。
★資料を用意しますので、テキストの持参は不要です。
★Zoomウェビナーを使用した、教室でもオンラインでも受講できる自由選択講座です(講師は教室)。見逃し配信(2週間限定)はマイページにアップします。各自ご確認ください。お問合せはyk9yokohama@asahiculture.comで承ります。