今年(2025年)は「戦後80年」という節目を迎えた。戦争は人間、社会、国家のあり方を様々に変貌させる。 戸籍は「日本国民」の身分証明として長きにわたって社会に定着してきたが、そのあゆみは徴兵制の成立とともに始まった。「帝国臣民」の徴兵、戦死、戦災、生死不明・・・といった場面で戸籍はいかなる役割を持ち、また失ったのか。そして朝鮮、台湾といった植民地の人々や在外日本人も戸籍を通じて「皇軍」に動員された。戸籍という日本独特の装置を通して、日本における戦争と人間、社会、国家の関係の行方をあらためて再考することで、「戦後80年」の実相を問い直す。(講師:記) 【今期のテーマ】 第1回 徴兵と戸籍−「皇軍兵士」となる名誉 近代日本の徴兵制は戸籍制度に支えられていた。国民は戸籍に登録されることで「皇軍兵士」として動員された。戦時の「赤紙」はいかにして交付されたのか。また、兵士はいかにその身分を管理されたのか。兵役と戸籍の仕組みを振り返る。 第2回 徴兵逃れ百景−戸籍の細工にどんな手でも 兵役は「帝国臣民の義務」とされたが、民衆はあの手この手を使って兵役逃れを図った。そこでの手口は戸籍の偽装や捏造のみならず、合法的な抜け道もあった。国家の動員に抗う庶民の知恵は戸籍をどのように利用したのか? 第3回 「英霊」の死亡届−幽霊は生きていた? 戦争に戦死者は付きものである。不幸にも戦死を遂げた兵士、また生死不明となった兵士の戸籍はどうなったのか?「戦死公報」とは何であったか?「死んだ」はずの兵士が実は生きていたら?戦死と戸籍をめぐる悲喜こもごものドラマがそこにある。 【来期のテーマ】 第4回 植民地と兵役―「一視同仁」の名の下に 日本の統治下に置かれた朝鮮人や台湾人も「帝国臣民」とされていた。だが、彼らの兵役は日本にとって慎重を期すべき問題であった。戦争末期、植民地に徴兵制が課された経緯は何であったか?それと並行して行われた皇民化政策についても問う。 第5回 総力戦体制と戸籍−移民から銃後まで 日本が総力戦体制に突入すると、「根こそぎ動員」の様相を呈した。そこでは、「銃後」の動員のために戸籍だけでなく、様々な身分登録制度が生まれた。また、在外日本人、たとえば満洲国に渡った開拓民の兵役と戸籍はどうなっていたのか?「非常時」における国民管理の実状をあらためて探ってみる。 第6回 敗戦で灰になった戸籍−失われた「日本人」の証明 日本が敗戦を迎えた時、東京、大阪、沖縄などでは戸籍は灰燼に帰していた。「日本人」の証明とさる戸籍が失われたために起こったカオス。焼け野原の中、戸籍はいかにして生き返ったのか?また、植民地や引揚者をめぐる戦後処理においても戸籍は重大な位置づけにあった。そこから浮かび上がる「戦後80年」の歪んだ闇の部分を再考する。
遠藤 正敬:えんどう・まさたか 1972年千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了。博士(政治学)。早稲田大学台湾研究所非常勤次席研究員。早稲田大学、宇都宮大学等非常勤講師。専攻は政治学、日本政治史。著書に『犬神家の戸籍−「血」と「家」の近代日本』(青土社、2021)、『天皇と戸籍−「日本」を映す鏡』(筑摩選書、2019)、『戸籍と無戸籍−「日本人」の輪郭』(人文書院、2017)、『戸籍と国籍の近現代史−民族・血統・日本人』(明石書店、2013)等。
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