『吾妻鏡』を読み進める講座です。同書は鎌倉幕府とその時代の歴史を知る根幹資料です。九条兼実や藤原定家などの公家の日記などがその編纂材料となっていますが、幕府や北条氏の立場での記述が多く、単なる編年体の日次記事としてではなく、行間の陰影や背後の事情を読み取っていく必要があり、それが面白さにつながります。同時代の史料や文学作品にも広く目を配り、人物の関係も丁寧に押さえながらじっくりと読んでいきます。 今期は建久三年(一一九二)の八月から同四年の三月までの記事を読みます。建久二年の七月に征夷大将軍に任じられた頼朝は、鎌倉で政所始を行い、いよいよ政治機関としての幕府の力は揺るぎないものになっていきます。またその頃、妻の政子が二男にあたる男児(後の実朝)を出産し、頼朝の周辺は喜びに沸くのでした。一方、源平合戦で活躍した熊谷直実は、親戚との裁判に行き詰まって出奔し、出家を遂げます。『平家物語』で有名な平敦盛との話に成長していく出来事です。また、平重衡により焼き討ちに遭った東大寺の再建は難航しつつも進んでいきます。大きな出来事の続く頼朝周辺の日々を追ってみましょう。(講師・記) 〔4月期各回の予定〕 1、建久三年八月五日〜八月十五日 政所始と実朝の誕生 2、建久三年八月十六日〜九月二十五日 北条義時の結婚 3、建久三年十月十五日〜十一月二十二日 実朝の御行始と永福寺の完成 4、建久三年十一月二十五日〜十一月二十九日 熊谷直実の出奔 5、建久三年十二月二日〜十二月二十九日 熊谷直実の出家 6、建久四年一月一日〜二月二十八日 北条時貞の死去 7、建久四年三月一日〜三月二十五日 東大寺再建の難航
清水 由美子:中央大学兼任講師 1957年神奈川県生まれ。東京大学大学院博士課程単位取得満期退学。博士(文学)。東京外国語大学、東京大学などの講師を経て、現在、中央大学、成蹊大学、学習院大学、清泉女子大学等講師。専門分野は日本中世文学、軍記物語研究。著書『平家物語を繙く』(単著、若草書房、2019年)、『校訂延慶本平家物語十二』(共著、汲古書院、2010年)など。論文「崩壊した母性 平時子と北条政子の母性をめぐって」(『清泉女子大学人文科学研究所紀要』2013年)、「作為としての母親像 二位尼平時子の造型」(『国語と国文学』2008年)など。
指定テキストはありません。プリントを配布します。