「戦後80年」ということが言われます。「戦後」をどのように考え、記憶していくのか。そのことを、井上ひさし(1934−2010)の作品を手がかりに考えてみたいと思います。ご存知のように、井上ひさしは放送作家として出発し「ひょっこりひょうたん島」(1964−69)をはじめとして、いまだに語り継がれる作品を送り出しました。その後、小説、戯曲を書き、エッセイなど幅広いジャンルで活動し、『吉里吉里人』(1981)などのベストセラーを生みだします。井上作品は、小説でも戯曲でも一貫して生活する人びとへの温かいまなざしとともに、国家と社会のあり方への批判的な視点が脈打っています。とくに戦争の悲惨さは繰り返し語っています。 このことは、井上ひさしが歴史の証言者であることも意味します。敗戦時に10歳であったひさしは、その後「占領」の時代を経て、高度経済成長の時代から「経済大国」の日本に直面し、さらに冷戦体制崩壊――「戦後」の終焉にも立ち会います。その時々の「戦後」の出来事に真正面から向き合い、出来事のもつ意味を、小説・戯曲・エッセイとして読者に提供してきました。 井上ひさしは「戦後」と伴走しながら、研ぎ澄ませたことばで「戦後」を作品化してきました。井上が「民主主義」といったとき、干からびかけていた「民主主義」が生き生きとし、「日本国憲法」はその宝庫となっていきます。「戦後80年」を考えるとき、井上ひさしの作品は、このうえない知見を提供してくれます。「小説」「戯曲」「エッセイ」から代表的な作品を選んで、考えてみたいと思います。「文学研究者」と「歴史家」との対話の形式をとります。 (成田講師・記) ・2025年1月開講。1年間かけて井上ひさし作品を取り上げます。 ・こちらは各回でのお申込みページです。 ・各回でもお申込みいただけますが、連続して受講される方が理解しやすいです。 ・途中からの受講も歓迎いたします。 <カリキュラム> ※予定は変更になる場合がございます。 第三回 井上ひさしの作品から、「戦後80年」を考える ・お得な全6回通しはこちらから [https://www.asahiculture.com/asahiculture/asp-webapp/web/WWebKozaShosaiNyuryoku.do?kozaId=7611345](https://www.asahiculture.com/asahiculture/asp-webapp/web/WWebKozaShosaiNyuryoku.do?kozaId=7611345)
小森 陽一:こもり・よういち 東京大学名誉教授 1953年生まれ。北海道大学大学院文学研究科修了。成城大学文学部助教授、東京大学助教授・教授を経て現職。著書に『構造としての語り』(新曜社)、『読むための理論 文学・思想・批評』(世織書房)『知の技法』(共著・東京大学出版会)、『ことばの力・平和の力 近代日本文学と日本国憲法』(かもがわ出版)、『難民(思考のフロンティア)』(共著・岩波書店)、『戦後日本は戦争をしてきた』(共著・角川書店)、『理不尽社会に言葉の力を』『戦争への想像力』『生きさせる思想−記憶の解析・生存の肯定』(新日本出版社)、『天皇の玉音放送』(朝日新聞出版)、『漱石論 21世紀を生き延びるために』(岩波書店) 、『東アジア歴史認識論争のメタヒストリー』(共著・青弓社)、『壊れゆく世界と時代の課題』(共著・岩波書店)などがある。
成田 龍一:なりた・りゅういち 日本女子大学名誉教授 1951年生まれ。日本女子大学名誉教授。専門は近現代日本史。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。著書に『近現代日本史と歴史学』(中公新書)、『増補「戦争経験」の戦後史』(岩波現代文庫)、『近代都市空間の文化経験』(岩波書店)、『加藤周一を記憶する』(講談社現代新書)他多数。
【テキスト・参考文献】 各回の取り上げ作品は、各自ご用意ください。
・Zoomウェビナーを使用した、教室でもオンラインでも受講できる自由選択講座です(講師は教室)。見逃し配信(1週間限定)はマイページにアップします。各自ご確認ください。お問合せはasaculonline001@asahiculture.comで承ります。