考えることと行為することは人間の生の根本条件ですが、両者はどのように異なり、またどのように関係するのでしょうか。この問題は、古来から哲学の根本問題であり、理論と実践、哲学と政治、聖と俗、学問と実生活、非日常と日常の対比など、さまざまなヴァリエーションにおいて論じられてきました。 近現代の代表的な思想家の間でも、カントは理論理性に対する実践理性の優位を説き、マルクスは「哲学者は世界をさまざまに解釈するだけであるが、大切なのは世界を変革することだ」と語り哲学よりも政治的実践を重視しました。ハイデガーは、実践に先立つ思索を最高の活動だと強調しました。ハンナ・アレントは、古代ギリシア以来の西洋哲学の全史を視野に収めながら、自らが哲学者と呼ばれることを好まず、政治的実践「活動」という彼女の独自の概念を打ち出すとともに、晩年には「思考」・「意志」・「判断力」という精神の働きをも重視しました。 本講座では、アレントの主著である『人間の条件』の読解を通して、考えるとは何か、行為するとは何か、ひいては現代において「生きる」とはどういうことなのかについて、皆さんとともに議論してみたいと思います。
円谷 裕二:東京大学文学部卒業、同大学大学院修士修了。博士退学。信州大学助教授、九州大学教授を経て現在は九州大学名誉教授。著書『経験と存在—カントの超越論的哲学の帰趨』(東京大学出版会)、『近代哲学の射程―有限と無限のあいだ』(放送大学教育振興会)、『知覚 言語 存在―メルロ=ポンティ哲学との対話』(九州大学出版会)、『デカルトとカント―人間 自然・神をめぐる争い』(北樹出版)、論文「哲学と政治―ハンナ・アーレントの行為論に即して―」、「カントの超越論的哲学からアーレントの政治哲学へ―根源悪と人権概念をめぐって―」など。
ハンナ・アレント著『人間の条件』(ちくま学芸文庫、志水速雄訳 1,650円)をご用意下さい。
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