ライマン・フランク・ボーム(1856-1919)の『オズの魔法使い』(The Wonderful Wizard of Oz, 1900)の名前を聞いたことがない人はおそらくいないでしょう。アメリカの児童文学の代表作であるとともに、アメリカのファンタジーというジャンルの嚆矢となった作品でもあります。もちろんヴィクター・フレミング監督、ジュディ・ガーランド主演の1939年の映画版(『オズの魔法使』)をご覧になった方も多いでしょうが、この映画と原作の間に少なからぬ相違があることは、原作を読まないとわかりません。そしてこの映画との相違のなかにこそ、本作の魅力と秘密が隠されているのです。 たとえばドロシーがオズの国で履くのは映画版ではルビーの靴ですが、原作では銀の靴です。なぜ原作者ボームが靴の色に銀を選んだのか、そして映画ではそれをなぜルビーに変更したのか。じつはそうした細部から『オズの魔法使い』という作品の背後にあるアメリカ社会、経済、政治などが見えてくるのです。またこの作品の成立にきわめて重要な役割を果たしたのが原作の挿画を担当したウィリアム・ウォレス・デンズロウですが、そのデンズロウのイラストにもさまざまな秘密が隠されています。 今回は全3回にわたり、そうした作品の成立に関わるさまざまな事情や背景に目を配りながら、『オズの魔法使い』という作品の豊かな世界を読み解いていきます。
長澤 唯史:椙山女学園大学教授 1963年静岡県生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科英米文学専攻修士課程修了。豊田工業高等専門学校助教授、椙山女学園大学文化情報学部助教授などを経て、2008年より椙山女学園大学国際コミュニケーション学部教授。共著『日米映像文学は戦争をどう見たか』(金星堂)。論文"The Reception of American Science Fiction in Japan" (Oxford research encyclopedia of Literature,)、「ポストモダンはSFを夢みる ―SFをめぐる批評理論の概観」(『文学』第8巻第4号)。その他、『文藝別冊』(河出書房新社)、『70年代ロックとアメリカの風景〜音楽で闘うということ』(椙山女学園大学研究叢書 49)にてロック、ポップミュージックに関する論考を発表している。
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