2024年8月、エアロスミスのヴォーカリスト、スティーヴン・タイラーが声帯損傷のためツアーを引退すると発表されました。昨年のKISS引退に引き続き時代を築いたスターが去っていくという残念なニュースですが、逆に言えば70年代から今まで、かれらがポピュラー音楽界でトップを走り続けてきた偉大なアーティストであったことを改めて示したともいえます。 エアロスミスがデビューした70年代はまさに「ロック」の時代でした。60年代以前とも80年代以降とも異なり、その10年間はロックを軸として音楽業界が成立していたのです。ミリオンセラーが常態化し、スタジアムでのコンサートはつねに満員。そのあまりの巨大な売り上げや人気から、ともすれば「産業ロック」とも揶揄されたその時代の音楽を、今改めて振り返ってみるとどんな風景が見えてくるでしょうか。 ストーンズやヤードバーズに影響を受けながら、そうした60年代のバンドとは異なる個人音楽へのアプローチから新たな時代のロックを創りあげたエアロスミスは、まさに70年代を象徴するバンドでした。かれらの全盛期を中心に、その時代のロックの多様性やひろがり、その後の時代への影響なども考察します。
長澤 唯史:椙山女学園大学教授 1963年静岡県生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科英米文学専攻修士課程修了。豊田工業高等専門学校助教授、椙山女学園大学文化情報学部助教授などを経て、2008年より椙山女学園大学国際コミュニケーション学部教授。共著『日米映像文学は戦争をどう見たか』(金星堂)。論文"The Reception of American Science Fiction in Japan" (Oxford research encyclopedia of Literature,)、「ポストモダンはSFを夢みる ―SFをめぐる批評理論の概観」(『文学』第8巻第4号)。その他、『文藝別冊』(河出書房新社)、『70年代ロックとアメリカの風景〜音楽で闘うということ』(椙山女学園大学研究叢書 49)にてロック、ポップミュージックに関する論考を発表している。