『吾妻鏡』を読み進める講座です。同書は鎌倉幕府とその時代の歴史を知る根幹資料です。九条兼実や藤原定家などの公家の日記などがその編纂材料となっていますが、幕府や北条氏の立場での記述が多く、単なる編年体の日次記事としてではなく、行間の陰影や背後の事情を読み取っていく必要があり、それが面白さにつながります。同時代の史料や文学作品にも広く目を配り、人物の関係も丁寧に押さえながらじっくりと読んでいきます。 今期は建久二年(一一九一)の一月からの記事を読みます。政権掌握後はじめての上洛、そこでの後白河院らとの会談など大仕事を終えた頼朝は、鎌倉での穏やかな日々の中、幕府の機構の整備に着手しますが、春には鎌倉の町を大火が襲います。また、佐々木定綱が延暦寺と対立し、衝突するという事件も起こり、頼朝はその処理にも追われることとなります。一方、幕府の体制は着実に堅固なものとなり、頼朝の権力は揺るぎないものになっていきます。そうした頼朝の鎌倉帰還後の日々を追ってみましょう。 1、建久二年一月二十三日〜二月二十一日 新年の二所詣と幕府の機構の整備 2、建久二年三月三日〜四月三十日 鎌倉の大火と、佐々木定綱と延暦寺の対立 3、建久二年五月一日〜五月三日 佐々木定綱事件をめぐる頼朝の訴え 4、建久二年五月八日〜五月二十日 佐々木定綱らに対する後白河院の裁定 5、建久二年六月七日〜七月二十八日 一条能保の娘と九条兼実の息の結婚 6、建久二年八月一日〜八月二十七日 大庭景能の語る保元の乱でのできごと 7、建久二年九月一三日〜十月二十五日 大姫の発病
清水 由美子:中央大学兼任講師 1957年神奈川県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科日本文化研究専攻日本語日本文学専門分野博士課程単位取得満期退学。博士(文学)。現在、中央大学、成蹊大学、清泉女子大学等非常勤講師。専門分野は、日本中世文学、軍記物語。著書『平家物語を繙く』(単著、若草書房、2019年)、『校訂延慶本平家物語 十二』(共著、汲古書院、2010年)。論文「『平家物語』と『吾妻鏡』―横田河原合戦をめぐって」(中央大学文学部紀要『言語・文学・文化』123、2019年3月)など。
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