バブル経済の終わりから現在に至る時代は「失われた30年」とよばれ、失われた状態がいつまで続くかわからない状態である。しかし、日本の戦後史を俯瞰すると、1970年代の石油ショックによる高度経済成長の終わり以来、日本人は失われた50年を生きているという方が正確だろう。他方、高度成長が終わった時から、日本の経済、社会モデルの刷新について多くの学者や官僚が様々な議論を展開し、オルタナティブを追求する動きは存在した。こうした論争の歴史を振り返り、実現できなかった提言から日本の未来を切り開くための知恵を掘り起こす作業を試みたい。 (講師・記/2024年10月〜全2期・6講予定) 〈10月期のテーマ〉 1 高度成長の終わりをどう迎えたか 1970年代の石油危機は戦後日本の高度経済成長を終わらせた。この衝撃をどう受け止め、ポスト高度成長の経済社会のモデルをどう描いたか。1970年代の政策構想をめぐる保守派、リベラル派の議論を振り返る。 2 第二次臨調行革の思想 1980年代の第二次臨時行政調査会による行政改革はその後の日本の行政や経済の形を規定した大きな政策転換を実現した。この時代の行政改革を導いた政策思想を振り返り、その限界を明らかにする。 3 バブルの絶頂から見た未来 1980年代後半は、日本が好況に沸いた最後の時代であった。貿易黒字の蓄積と個人の生活の貧しさというギャップをどのように克服するかという課題について、当時の学者やエコノミストがどう考え、その後の政策にどのような影響を与えたか考察する。 〈後期のテーマ〉 4 新自由主義的構造改革の思想と実態 1990年代後半から2000年代にかけて展開された新自由主義的構造改革について、その思想と政策展開について振り返る。また、小泉純一郎政権の構造改革になぜ熱狂的な支持が集まったのか、その政治的背景を明らかにする。 5 民主党政権の挑戦と挫折 2009年の民主党政権は、「国民の生活が第一」というスローガンのもとでどのような社会経済モデルを実現しようとし、なぜ挫折したのかを明らかにする。未完の改革の中にはいま再び追求すべきものがあることを強調したい。 6 アベノミクスの罪 2013年から始まったいわゆるアベノミクスの意味と帰結について考える。さらに、今の日本が直面する政策課題についてどのように取り組むべきかを論じたい。 <参考文献> 山口二郎・著『日本はどこで道を誤ったのか』(集英社インターナショナル新書、2024年)
山口 二郎:やまぐち・じろう 法政大学教授 1958年岡山県生まれ。1981年東京大学法学部卒業後、東京大学法学部助手、北海道大学法学部助教授を経て1987年よりアメリカ・コーネル大学へ留学。1993年北海道大学法学部教授。1997年よりイギリス・オックスフォード大学に留学。2000−2004年北海道大学大学院法学研究科附属高等法政教育研究センター長。2005年よりイギリス、ウォーリック大学に留学。北海道大学公共政策大学院教授、北海道大学大学院法学研究科教授、パリ国立政治学院客員教授を経て、2014年4月より法政大学法学部教授。専攻は政治学・行政学。著書に、『ポピュリズムへの反撃』(角川書店)、『いまを生きるための政治学』(岩波書店)他多数。
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