今回は英国の人気作家、ジェイン・オースティン(1775 – 1817)の『マンスフィールド・パーク』(1814年)を、2期にわたってとりあげます。ヒロインのファニーはオースティンの作品の中では最も「地味」で内気な人物ですが、これもオースティンの作品には珍しく、ヒロインの子供時代も描かれていて、読者はその成長を追うことができます。ファニーは准男爵のおじの家に引き取られ、最初は惨めな思いをしながらも、いつの間にかすっかりその家になじみ、家族にとってなくてはならない存在になっていきます。ここでも当時のイギリスの微妙な階級社会が鮮やかに描かれているだけでなく、カントリー・ハウスのあり方、聖職者の立場、植民地、奴隷貿易など、当時のさまざまな社会的、文化的な要素が描かれている、興味深い作品です。今期は作品全体の紹介の後に、第一巻(十八章)を読みます。(次の学期に二巻、三巻を読む予定です。)あらすじや結末などにも触れますので、作品をあらかじめ読んでおくことをお勧めします。(講師・記) 【画像】ヘンリー・クローフォドとファニー、1908年版の挿絵、C. E. Brock作
新井 潤美:あらい・めぐみ 東京大学大学院教授 東京大学大学院比較文学比較文化専攻博士号取得(学術博士)。東京大学大学院人文社会系研究科教授。専門はイギリス文学、イギリス文化、比較文学。主な著書に、『階級にとりつかれた人びと 英国ミドル・クラスの生活と意見』(2001)中公新書、『へそ曲がりの大英帝国』(2018)平凡社新書、『執事とメイドの裏表―イギリス文化における使用人のイメージ』(2011)白水社、『魅惑のヴィクトリア朝―アリスとホームズの英国文化』(2016)NHK出版、『パブリック・スクール―イギリス的紳士・淑女のつくられかた』(2016)岩波新書、『〈英国紳士〉の生態学―ことばから暮らしまで』(2020)講談社学術文庫、『ノブレス・オブリージュ―イギリスの上流階級』(2021)白水社、『英語の階級―執事は「上流の英語」を話すのか?』(2022)講談社選書メチエ。訳書に、ジェイン・オースティン著『ジェイン・オースティンの手紙』(2004)岩波文庫、他。