「能の中の源氏物語」というテーマで「葵上」「半蔀」「源氏供養」の3曲を取り上げて鑑賞します。 「葵上」は六条御息所をシテとした能で、御息所が怨霊となって光源氏の正妻である葵上を襲うという衝撃的な内容です。葵上を取り殺す御息所は恐ろしい存在ですが、物語に深みをもたらす興味深い女性です。果たして能ではどう描かれているでしょうか。 「半蔀」は源氏に愛されながらも若くして亡くなった夕顔の霊が、立花供養の場に現れて源氏への思慕をのべ、自身の成仏を希求する能です。半蔀とは上半が釣り上げられるようになった蔀戸のことで、その作り物が描かれた江戸時代の能絵も紹介しながらお話しします。 「源氏供養」は石山寺を参詣する法師の前に紫式部の幽霊があらわれて、紫式部自身と物語の主人公である光源氏の供養を願いますが、実は紫式部は石山寺の観音の化身であったという能です。奇想天外な内容ですが、「源氏物語」を供養する思想や、紫式部が観音の化身であるという信仰は古くからあって、それを背景に作られたことを読み解きます。 以上、古典文学の最高峰である「源氏物語」は能の題材としても多様に摂取されています。その世界を大いに楽しんでください。(講師・記)
小林 健二:国文学研究資料館研究部名誉教授。日本の中世文芸、とくに室町時代に成立した能・狂言などの芸能や幸若舞曲といった語り物、そして御伽草子と呼ばれる室町期の物語と、それが書かれた絵巻・絵本の研究を専門とする。また、中世文芸を研究すると共にその面白さを分かり易く社会に発信することを心がけている。代表的な著書に『中世劇文学の研究ー能と幸若舞曲』 (平成11年、三弥井書店)があり、それにより博士(文学)を取得。また、『描かれた能楽ー芸能と絵画が織りなす文化史』(平成31年、吉川弘文館)は絵画資料を用いた能楽研究として高く評価されている。2019年3月まで国文学研究資料館研究部教授、同年4月より名誉教授。
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