古来、弁韓の地は、鉄の産地として知られ、3世紀の「魏志東夷伝」には狗邪韓国が見え、考古資料からは4世紀までに南東部の金官国(慶尚南道金海市)を中心とした前期伽耶連盟が成立したと推測されます。『日本書紀』や『三国遺事』伽耶条には、阿羅伽耶、古寧伽耶、大伽耶、星山伽耶、小伽耶、金官、非火などの国々が記されています。しかし『日本書紀』で伽耶を倭の出先機関(任那日本府)と記述しているのは史実ではありません。任那とは任那加羅(金官加羅・駕洛国)を指し、彼らは高句麗・新羅に対抗するために百済・倭国と結びました。 金海大成洞古墳群は金官伽耶国の王陵群で、4世紀には、長方形の主槨に方形の副槨を伴う大型木槨墓が造営され、鉄製武器・甲冑、馬具に加え、巴形銅器や碧玉製鏃形石製品など、ヤマト政権が贈与した倭系遺物も副葬しています。 これに対し福泉洞古墳群では、新羅風の有棘利器や板甲が多く出土し、金官伽耶の一員である一方、新羅の強い影響がうかがえます。伽耶の5世紀前半の馬具は、高句麗や北方の影響が強く、実用的な鉄製が多いのが特徴です。 5世紀前半のある段階から、金官国に代わって、北部の大伽耶国(慶尚北道高霊郡)・多羅国(陝川郡)を中心にした大伽耶連名の勢力が台頭し、高霊池山洞古墳群・陝川玉田古墳群に王陵級古墳が集中しています。なかでも近年発掘された池山洞75号墳では、大阪府誉田丸山古墳や福岡県月岡古墳のものに類似する馬具が出土しました。また高霊古衙洞壁画古墳で出土したと伝える金銅装の鞍金具は、国宝誉田丸山鞍によく似た構造を示しています。 本講座では、金官伽耶馬具に見る鮮卑の影響、大伽耶馬具の日本への影響について考えます。
桃ア 祐輔:福岡大学人文学部歴史学科教授 1967年(昭和42年)3月12日生まれ。福岡大学人文学部教授(考古学) 福岡県福岡市出身 筑波大学大学院歴史・人類学研究科文化人類学専攻を単位取得退学。東京国立博物館事務補佐員、筑波大学助手を経て2004年に福岡大学に着任。2018年に中国社会科学院考古研究所・吉林大学・西北大学で1年間の在外研究に従事。ユーラシア騎馬文化・中近世仏教考古学が専門で「中世とは何か」の解明をめざす。 主な著作に「高句麗太王陵出土瓦・馬具からみた好太王陵説の評価」(『海と考古学』2005)、「七支刀の金象嵌銘技術にみる中国尚方の影響」『文化財と技術 4』2005)、「中世棒状鉄素材に関する基礎的研究」(『七隈史学』第10号)、「九州の屯倉研究入門」(『還暦、還暦?、還暦!』2010)、「九州出土子持勾玉研究入門」(『福岡大学考古学論集2』2013)、桃崎祐輔「騎馬文化の拡散と農耕文明との融合−江上騎馬民族征服王朝説が描く文化融合モデルとその今日的意義−」(『今、騎馬民族説を見直す』2014)「山の神古墳出土馬具の検討―2セットのf字形鏡板付轡・扁円剣菱形杏葉の年代とその意義―」(『山の神古墳の研究』2015)「金属容器」(『モノと技術の古代史 金属編』2017)「英彦山信仰遺跡と遺物からみた英彦山の歴史」(『英彦山の宗教民俗と文化資源』2017)など
筆記用具をお持ちください。 ※6月は30分延長します。
Zoomウェビナーを使用した、教室でもオンラインでも受講できる自由選択講座です(講師は教室)。見逃し配信(1週間限定)はマイページにアップします。各自ご確認ください。お問合せはfk9asacul@asahiculture.comで承ります。 ※資料は講座開始1時間前のアップを予定しています。ご了承下さい。