西行和歌には「北山」という地名自体は、鞍馬寺を指すと思われる「北山寺」が2回登場するだけであるが、北山(洛北)を詠んだ西行和歌は71首に及び、西山87首には及ばないものの、東山45首、洛南25首を遙かに凌いでいる。寂然との交友がその過半を占める大原の歌が最も多いが、他に小野、賀茂、紫野などの歌が残る。出家後間もなく、鞍馬の奥に籠って冬を越すのに難儀したり、同じ頃の夏には「北山寺」で病を得たこともあった。また、船岡、蓮台野といった葬地を詠んだり、近衛院、二条院の御陵に墓参したり、と東山や西山とは明らかに異なった風景が詠まれているようである。 西行にとって北山とは何だったのか、西行和歌の中で北山を位置づけたい。(講師・記)
西澤 美仁:にしざわ・よしひと 上智大学名誉教授 1953年愛知県生まれ。東京大学卒業。著書『西行―魂の旅路―』(2010)の他、明治書院・和歌文学大系『山家集・聞書集・残集』(2003)で『山家集』の注釈を担当。2009年「西行学会」を設立し、代表を務める。
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