伝統的な「日本人」の身分証明として生き続ける戸籍。人権や家族のあり方が多様化の一途をたどり、政治や社会の争点となっている現代日本にあって、戸籍はそれらの変化に対応できているのか?「多様性の尊重」が叫ばれる時代にふさわしい制度といえるのか? 本講座では、戸籍制度の特色を概観した上で、夫婦別姓、同性婚、マイナンバーといった複数の争点を取り上げ、それぞれがもつ戸籍制度との関係を明らかにする。それにより、戸籍制度と個人との対立軸、そして現代日本社会において戸籍制度がもつ矛盾を浮き彫りにしたい。(講師:記) 10月:戸籍とは何かー日本的制度の特色 戸籍は日本独自の身分登録制度である。それはいかなる役割を担い、外国の制度と比較していかなる特色をもつのか?また戸籍制度の歴史を振り返り、戦前と戦後とでどのような変化または連続がみられるのかを考える。 11月:選択的夫婦別姓と戸籍 日本では世界でも類をみない夫婦同姓主義を維持している。近年、これに抵抗感を覚える人が増加し、選択的夫婦別姓制度の実施を望む声が高まっている。戸籍における夫婦同姓主義のもつ意味について、日本の伝統的家族観の問題点とともに考える。 12月:同性婚と戸籍 「性自認」への理解とLGBTQ(性的少数者)の権利の尊重は世界的な潮流になりつつある。だが、日本は他の先進国と比べ、同性婚をはじめ性的少数者の権利を保障する法制度が何も整備されていない。同性婚の問題を通して戸籍制度と現実との矛盾を問う。 【来期の予定】 1月:「出自を知る権利」と戸籍 近年、代理出産や生殖補助医療、さらには「内密出産」など出産の方法も多様となってきた。これらの形で生まれた子の戸籍は一体、どうなるのか?「親子」関係はどのように決まるのか?子の「出自を知る権利」はどこまで保障されるべきなのかを考える。 2月:マイナンバーと戸籍 日本政府が導入した個人管理装置としてのマイナンバー制度。これが戸籍とも結びつけられ、その運用の範囲が拡大するとともに、多くの障害が発生しているマイナンバーカードの所持が義務化されようとしている。マイナンバーと戸籍の紐づけのねらいは何か。その問題点をさぐる。 3月:戸籍制度のゆくえ グローバルな人の移動、戸籍のない「日本人」の存在、「家族」や「性」や「国籍」をめぐる価値観の変化・・・。個人の生き方が多様化していく現代社会において、戸籍とは本当に必要不可欠なのか? 現実との矛盾を抱え続ける戸籍制度の今後を占う。 【参考図書】 [『新版 戸籍と国籍の近現代史』](https://www.akashi.co.jp/book/b629085.html)遠藤 正敬 著(明石書店)
遠藤 正敬:えんどう・まさたか 1972年千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了。博士(政治学)。早稲田大学台湾研究所非常勤次席研究員。早稲田大学、宇都宮大学等非常勤講師。専攻は政治学、日本政治史。著書に『犬神家の戸籍−「血」と「家」の近代日本』(青土社、2021)、『天皇と戸籍−「日本」を映す鏡』(筑摩選書、2019)、『戸籍と無戸籍−「日本人」の輪郭』(人文書院、2017)、『戸籍と国籍の近現代史−民族・血統・日本人』(明石書店、2013)等。
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